堺風の頭部

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グロリアスノア産駒の勝ち馬率100%記録が伸びた

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 POGで取って注目してたグロリアスアポイというのが、12月20日の浦和競馬1R・ドリームチャレンジでデビュー戦勝利を決めた。
 なんでこんな地方馬に注目してたかといえば、これにより、父グロリアスノア種牡馬として競馬に送り出した産駒すべてが勝ち上がる記録を伸ばした。
 まあ3頭だったのが4頭になっただけではあるけれど、しかしなかなか偶然でそうなるもんではない。

 サンデーサイレンスの産駒でも勝ち上がり率は81%。ディープインパクトで77%。
 最近だとシニスターミニスターなんか高くて81.5%(地方は93%)。
 仮に80%勝たせられる種牡馬でも、4頭続けば0.8^4で41%の確率でしか起きない事象になっちゃうし、50%程度だったら4頭勝つのは6%まで下がる。

 たった4頭といっても、最初の1頭は中央で未勝利戦2着2回まで頑張って園田で初勝利、続く3頭は地方(門別・川崎・浦和)で新馬勝ち。
 なかなか馬鹿にしたものではない。

 

グロリアスノアについて

 グロリアスノアは、2006年生まれだから2009年にクラシックを走る世代。アンライバルドとかロジユニヴァーススリーロールスが同世代。
 とはいえ早くからダート馬と割り切っていて、クラシックを横目にユニコーンステークス2着からジャパンダートダービーに挑んでテスタマッタの4着。
 秋にはエニフステークスを勝って、明けて4歳、1月末の根岸ステークスを差し切って重賞初勝利。鞍上の小林慎一郎騎手も重賞初勝利で、馬主の高野葉子さんも中央重賞初かな。ちょっと馬主さんについては調べが頼りないけれど。

 それからフェブラリーステークスに挑んで掲示板5着。小林騎手JRA GI初騎乗。
 それからドバイ遠征でゴドルフィンマイルを4着。小林騎手初海外遠征、高野葉子さん所有馬初遠征。

 その後も武蔵野ステークスでもうひとつ重賞を勝ち、ジャパンカップダートでもトランセンドのクビ差2着に入った。
 これはもう立派なダートの強豪……と思ったら、ここから次々と悶着が起こる。
 まず珍しいことに、栗東矢作芳人厩舎から美浦小西一男厩舎に転厩することになっちゃった。どうも高野葉子さんと矢作調教師の間で意見の相違があったとかで。
 当時の雑誌によると、小林騎手に引き続き乗って欲しいオーナーと、小林より勝てる騎手に替えようという先生が対立したとか。
 小林騎手は、2010年の時点で年間50騎乗で3~4勝という、まあ勝てる騎手とは言い難かったんだけれど、それにしてもオーナーが彼を使えと主張する側だとは、なかなか興味深い人柄を感じる。

 そして転厩して、フェブラリーステークスを目指して調教中に屈腱炎をやってしまった。
 次はGIを勝ててもおかしくないほどの馬で、しかしまだ勝ってるわけじゃないから引退しても乗馬か、無理に種牡馬入りしてもやっていけるかどうか。それならなんとか治してもう一花、という気持ちはわかる。
 で、2年半休んで1レース走って、惨敗してまた故障。
 そこでも諦められず、また2年半休んで、もう一度走って惨敗。
 結果として、5年棒に振った末の引退になってしまった。

 

 引退後も、当初は乗馬になると発表されていたのが、一転して種牡馬入りになった。
 もちろんシンジケート組んでスタリオンステーションに入れるなんてわけもなく、多分馬主の高野さんが費用負担で、なんとか養ってくれる牧場を見つけた、ってとこじゃないかな。
 で、日高の辻牧場で、種牡馬として余生を過ごすことになった。

 

 父はプリサイスエンドアメリカで短距離GIIIを勝った馬で、日高地方で供用されていたそこそこの人気種牡馬
 短距離ダート用種牡馬って感じで、地方重賞馬は多数出してるけど、中央だとグロリアスノア根岸ステークスカフジテイク、あとはオープン特別のアハルテケステークスなどを勝ったメイショウウタゲが精一杯か。
 超大物が出せるわけじゃないけどハズレも少ないような、生産者にはありがたいタイプの種牡馬かと思う。

 母ラヴロバリーは未出走馬。その父はジェイドロバリー、母もフロリダからの輸入馬ということで、血統で繁殖に上げられたらしい。
 グロリアスノアの兄弟に大物がいるわけでもない。

 種牡馬として前途洋々とは思いづらい……というか、下手したら全然相手が来ないでそのまま廃用になってもおかしくないくらい。
 まあ、オーナーに余裕があって、愛された馬が種牡馬入りの名目で事実上の功労馬として余生を過ごすというのは時々あることではあるんだけど。

 

 ここから、生まれた僅かな子が4頭続けて勝ち上がる。

 

初年度産駒・レッドシリウス

 そんなグロリアスノアも、辻牧場にいたミサという牝馬と交配できて、2017年にレッドシリウスという子ができた。もちろんこの年はこの一頭だけ。

 ミサは、船橋競馬で3着1回で引退した馬。
 母としては、子はなかなか走る感じ。地方で10勝した馬を2頭も出している。
 しかし随分子出しの悪い体質みたいで、レッドシリウスの前に産んだのが3頭、不受胎が4回で、種付けもしなかったらしい年も3年ある。
 レッドシリウスも、ミサが16歳のときの子。

 高野葉子さんがレッドシリウスの馬主になって、中央競馬に入厩させた。
 3歳1月に新馬戦に出るも14番人気13着。期待されず、期待通りに終わった。
 しかし次は13番人気で5着。それから6着・5着・4着・3着・2着・2着とじりじり順位を上げていったものの、多分ここでプログラムから未勝利戦がなくなってしまった。
 それから園田競馬に移り、一度2着の後に初勝利。それから好走を続けて姫路でさらに2勝。2021年秋は中央競馬に戻ってきたりして、今も現役。

 

2018年産・グロリアスルカ

 レッドシリウスの翌年には、辻牧場のプレッピーという牝馬との間に、グロリアスルカという子ができた。

 母プレッピーは、タニノギムレット産駒で、3戦して未勝利。
 グロリアスルカの前に3頭の兄がいて、これは全員3勝以上している。これまでスマートファルコンドリームジャーニーサウスヴィグラスとそこそこ良い種牡馬をつけて出してた結果ではあるんだけど、突然グロリアスノアをつけようというのは意外。

 これももちろん高野葉子さんが馬主になって、門別競馬でデビュー。
 そしてデビュー戦をダート1000mなのに6馬身差の大勝利。
 2戦目も勝利、3戦目は5着に破れたけど4戦目も勝利。

 しかし5戦目、兵庫ジュニアグランプリに出走するはずが取り消してしまって、それから1年も出走がない。故障っぽいけど、どうしてるんだろう。
 まだ若いし、引退してるわけじゃないみたいだけど、うーん……。

 

2018年産・デルソーレ

 グロリアスルカと同年、新冠の村本牧場(オフサイドトラップとかトーワダーリンを出したとこ)のルーチェデルソーレという馬とも配合された。
 それでできたのがデルソーレ

 ルーチェデルソーレはメイショウボーラー産駒で地方3勝。母としても、1勝はする馬を手堅く出し続けていた。

 デルソーレも川崎競馬でデビューして新馬勝ちを決めた。同年生まれが二頭揃って新馬勝ち。

 あいにくその後は2戦して勝てず、どうやらそれでもう引退になってしまった。故障かもしれないなあ。グロリアスノアも故障に泣いた馬だけど、そのへんが遺伝してるんだろうか。

 

2019年産・グロリアスアポイ

 で、冒頭のグロリアスアポイに戻る。またもや新馬勝ち。
 2番手から早めに先頭に立ってそのまま押し切って完勝。

 これも辻牧場の肌馬ではなく、様似共栄牧場(サンレイポケットを出したところ)にいるヘイローマジックというのが母。中央で4戦未勝利だった。
 グロリアスアポイの兄・姉は9頭いて、6頭は勝ち上がり。

 これまた馬主は高野葉子さん。やはり子も引き取るつもりでグロリアスノア種牡馬にしたみたい。

 

2021年産の4頭

 それから1年空いて、子はなかなか良いと評判が出たのか、種付け数がぐっと増えて2021年には一挙に4頭生まれてきた。種付けは5頭してたらしいけど不受胎があったか。仕方ない。

 

 配合相手は、まず地方で8勝をあげているエスカ(父エンパイアメーカー)。新冠の村上牧場にいるみたい。
 繁殖に上がって最初に配合するのがいきなりグロリアスノア。なかなか挑戦的。

 血統を見るとMr.Prospectorが4x5x5の12.5%。グロリアスノア自身がMr.Prospectorの4x3を持ってたので、母方にもあったら自然とそういうクロスになっちゃう。
 Le Fabuleuxの5x5もあるけど、Northern Dancerも6x6x5x6だからこっちのが濃いか。

 

 それからブリリアントアリス(父シニスターミニスター)。浦河の田中スタッド。
 これまた初仔の父がグロリアスノアになる。

 血統は、エンドスウィープの3x4の18.75%。

 

 それからマンノアクトレス(父ハーツクライ)。新冠の中本牧場。
 グロリアスノアとの子は5番目になるみたい。兄・姉に活躍馬はなし。

 なかなか母系が渋くて、祖母マウンテンクイーンはキョウトシチーの母。さらにさかのぼっていくとダイシングという戦前に輸入された馬に行き当たる。
 メジロ牧場にいたクニノボリ系(リアルサファイア-サンライズバッカスとか、メジロカーラなど)のすぐ近くの牝系にあたる。クニノボリの妹フエンスからの系統。

 グロリアスノアとの配合だと、Nijinskyの5x5がある程度。かなりアメリカンなグロリアスノアと、かなり和風なマンノアクトレスだから、あまり血は近くないな。

 

 最後にパラマンボハーバー(父アドマイヤジャパン)。新冠のカミイスタット。
 近親にぽつぽつ地方重賞馬などがいる牝系で、比較的有名なのだと名古屋優駿を勝ったチアズサイレンスがいる。

 血統は、Mr.Prospectorの4x5x5とNijinskyの5x5ができる。

 

 まあ、これからデビューできない可能性もあるし、デビューしてから勝ち上がり記録を伸ばせるかもまだ未知数。
 しかし、8勝もしてきた牝馬とか、古い牝系の末裔とか、近親に活躍馬が居るとか、少しだけど肌馬のレベルも上がってる感じ。
 いっそ大物が生まれてしまったりしないだろうか。

 マイナー種牡馬が一発当てる事例というのも、例がないわけでもない。
 セイウンスカイとかトロットサンダーとかでもまだハイレベルな話に見えるような例もちゃんとある。

 地方で一勝しただけのマジェスティックという馬がオーナーの計らいで種牡馬入りし、一頭だけ生まれたカゼノグッドボーイが中央でなんと3勝して種牡馬入りしたとか。
 足が曲がっていて走れず、良血を惜しんで種牡馬入りしたけど初年度に一頭しか配合できなかったベストブラッドの、その一粒種サザンフィーバーが初戦で9馬身差の圧勝、スプリングステークスに出てミホシンザンのはるか前を逃げていながら故障で予後不良になり、代わりに父を人気種牡馬に押し上げたとか。

 それを思えばもう、4頭勝たせたグロリアスノアはもっと上を見ていいはず。クビ差届かなかったジャパンカップダートの雪辱を子に託そう。