堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

去りゆくEXILIMへの子守歌

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 カシオのEXILIM撤退報道が出たとき、来るべき時が来てしまったなあ、という感じであった。

 もう、コンパクトデジカメという商品は消えていく運命なんだろう。
 00年代前半、家電の花形だったデジカメ。カメラメーカーも電機メーカーも競って斬新な商品を作ろうと競い合い、何十という製品が毎年リリースされていた頃が懐かしい。今はもう2018年だもんな。

 

 カシオがEXILIMを産んだのは、2002年のことだった。
 ズームもない、オートフォーカスですらない、当時としても少ない130万画素とか200万画素のデジカメが、この超薄型カードスタイルであることをもって、2002年のデジカメ業界を席巻した。

 EXILIMが終わった2018年を、最初のEXILIMで撮ってみよう。

 

 EXILIMに詳しい人ならもうわかってることだが、「最初のEXILIM」といいつつ、今回使ったのはEX-S3。
 厳密に初代なのは、2002年夏発売のEX-S1。その後にS2を挟んでS3は三代目。

 しかしまあ、リアルタイムを知る世代が「EXILIM」といわれて思い出す、カエルの目玉が飛び出たようなあの形は、S3でも変更されていない。
 一応、これも初代に含めてもらおう。

 

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 EXILIMが出た2002年頃のデジカメは、ハイエンドモデルが500万画素くらいになって、標準的には300万画素というところ。
 そこにEX-S1は、たった130万画素で出てきた。かなりの安物でも200万画素はあった頃で、130万画素は少なすぎる。
 1600万画素と2400万画素の差にこだわる意味はあんまりないけど、130万と200万は大きな差だ。

 それでもEXILIMが大ヒットしたのは、薄くて小さかったからだ。

 

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(微妙に写りがおかしいが、古くてCCDセンサーが焼けちゃってるとかだろうか? レンズのコーティングが変色してるとか?)

 EXILIMの頃のデジカメは、うすらでかいモデルが多かった。
 ズームレンズをつけないと売れない。でも、ズームをつけるとどうしても厚みが増える。

 しかし小さいデジカメが好まれるという傾向も、確かにあった。
 キヤノンIXY DIGITALが当時から売れ線で、薄くはないけど小さく引き締まった直方体ボディで人気だった。他社もよくIXYっぽいサイコロ状のカメラを出したものだ。

 そこにカシオは、ズームを捨てて、こんなに薄くした。
 厚さは12mmをちょっと切るくらい。

 IXYや類似カメラが小さいといっても、ポケットに入れたらゴロっと出っ張る。EXILIMなら、胸ポケットに無理なくすっと入る。

 

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 まあ、捨てられたのはズームだけじゃなくって、写真機としての光学的性能はかなり切り捨てられている。

 オートフォーカスですらないパンフォーカス。
 マクロ撮影機能もないから、1m程度離れないとピントがこない。

 写ルンですと変わらないような撮影機能だ。

 

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 けれど、ズームは絶対必要だとか、オートフォーカスは絶対必要だとかは、思い込みだったかもしれない。
 EXILIMと同じ頃にカメラ付きケータイが流行しはじめたけど、ほとんどズームなんてなかったし、オートフォーカスもない方が多かった。

 

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 EXILIMって、光学的性能は低いけど、「さっと出してすぐ撮って、液晶に映して人に見せる」という、デジカメでの撮影全体の流れがすごく快適にできるカメラだった。

 電源ボタンを押したらほとんど待ち時間なく起動してくる。遅い機種なら5秒待たせるものもあった時期だ。
 撮影も早い。被写体を画面に収めてシャッターを押したらすぐ撮れる。オートフォーカスが迷ったりしない。
 全体の動作が軽快になっていて、カシオはやっぱりデジタルガジェットを作る技術が高かったんだと思わせる。
 それでもって、液晶モニターもケチってなくて、この時期にしては見やすかった。EX-S3になると大型化されてよりよくなった。

 

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 この写真は寄りすぎてピンボケなんだけど、カメラの背面モニターで見ている分には気にならない。わからない。
 EXILIMならそれでいい。

 私も含めてデジカメマニアは未だにやってるけど、PCのモニターに等倍で映して画質がどうこうこだわるのは、やっぱり大した意味はないかもしれないなあ。

 

 撮影してすぐ人に見せられる、液晶モニター付きのデジカメを初めて作ったカシオだ。だからEXILIMという、撮影して見せるまでが一番快適にできるカメラを作れた。そう思っておこう。

 

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 まあ、ちょっと暗くなるとすぐ手ぶれするのが玉に瑕ではあるんだけど、当時のカメラは全部この瑕を持ってたしな。
 それは仕方ないと割り切るカメラだ。

 

 たった300万画素でズームもマクロも手ぶれ補正もないない尽くし、それでも今使ってもちゃんと快適に撮影できる。
 ほんとに今の水準でも快適なレベル。2002年当時の動作の鈍いカメラの中では、とびきりだった。(私は当時も使ってたのでちゃんと知ってる)

 

 まあ、今となっては過去のことだし、この快適さが良さとして評価される時代もとっくの昔に終わってしまった。
 今のスマホの、撮影した写真データの扱いの多様さには、もう単体のデジカメでは太刀打ちのしようがないと思うし、そして人が求めてるのはその部分だろう。

 

 EXILIMが終わることになった今年にくらい、EXILIMの何が素晴らしかったかを書き残しておくのも、古い人の役目だ。ということにしておこう。