こういう画像ネタがあったけど、これまでのデジカメ史上において「顧客が本当に必要だったもの」といって私が想像する製品が、FinePix A202だった。
古いデジカメを漁る趣味で、90年代末から2005年くらいのデジカメを多数触ってきたけれど、このFinePix A202はなんとも良いなあと思う製品だった。
こんなやつ。
登場は2002年だけど、ほぼ同じような仕様で記録メディアがスマートメディアのA201、130万画素のA101が2001年に出ている。
センサーは1/2.7型200万画素CCDセンサー。当時としても画素数の少ないローエンドモデルで、レンズも換算36mmの単焦点。
2002年当時でさえ、カメラメーカー各社の全製品を並べた中で、最も下のクラスに位置する製品だった。
オートフォーカスもない、パンフォーカスレンズ。電源も単三電池2本。液晶モニターはついてるけど、もちろん小さいし荒い。
廉価も廉価、写ルンですがデジタル化した程度の、極めてシンプルなカメラだった。
当然価格も安くて、出たばっかりでも3万円以下。これは当時としては激安で、良いやつなら10万円くらいした時代だ。
しかし、そんなローエンド仕様であるがゆえに、それが長所になっていた。
まず、なかなかよく写る。
歪曲も目立たないしゃきっとした写り。周辺光量落ちは見えるけど、これくらいなら味だ。
画素数の少なさもあるけど、ピクセル等倍で見ても全然文句ない。やっぱり単焦点レンズには強さがある。
パンフォーカス機だからオートフォーカスがないが、80センチより遠ければ全域にピントが合っている。
他のデジカメはほとんどAF搭載だったけど、1秒以上かかる機種もざらにあったし、迷ったり失敗することも多かった。
A202なら、AF待ちなんて生じず一瞬でシャッターが切れるし、それで失敗もない。
また当時のデジカメは、電源を入れたらゆっくりレンズが繰り出して(ズームレンズ機に顕著)、その後ももたもたして、撮影できるようになるまで5秒くらい待たせるような機種もあった。
A202は、繰り出すレンズもないし、スイッチを入れれば2秒で撮影可能になる。当時としては非常に速い。
当時あまり言われなかったけど、終了の遅いデジカメもかなり多かったものだ。
撮影して電源を切ろうとしても、まだメモリーカードに書き込んでるから切れない。しばらく待って終わって電源ボタンを押しても、ゆっくりレンズが引っ込むのを待ってやっと切れる。
A202なら、スイッチをオフにした瞬間にもう仕舞える状態になる。
カメラの都合で人間の動作の流れが妨げられないのが、実用品として素晴らしい。
電源がボタンではなく、かなり大ぶりなスライドスイッチなのも良い。
操作ミスがないし手探りで操作できるし、スイッチを動かすと連動してレンズバリアが開閉するのも嬉しい。もちろん電動バリアじゃなくて、スイッチに物理的に連動している。
沈胴レンズもAFもないから、モーターで動く部分が少ない。
おかげでバッテリーライフも非常に長い。専用のリチウムイオンバッテリーを使わないで、また単三電池にしても4本のほうが確実だった頃に2本しか使わないのに、それでもこの長いライフ。
当時より今のほうが、単三ニッケル水素電池の性能がずっと良くなってるのも大きいな。
操作が簡単で、カメラ側のミスによる失敗も生じない。それでいて画質はなかなかよく、動作が機敏。電池はそのへんで買える単3でよく、しかもなかなか切れない。
こういうことは基本的なことにも見えるが、しかしどのカメラも完璧にはこなせなかった。A202は当時としては抜群で、今の水準でも悪くないくらい。
もちろんマクロは難しいし、背景をボカした写真とかは無理、望遠もないし、シャッター優先オートとかもできない。A202では撮れない写真はいろいろある。
けれど、写ルンですで撮れるようなシーンなら、A202でも撮れる。カバー範囲は十分広い。
コンパクトデジカメはこの後、とにかくズームレンズをつけて倍率も伸ばし、あるいは広角レンズだ、屈曲光学系だ、小型化だ、大型センサーだ、と果てしなく複雑化していった。
けど今や、みんなスマホのカメラで写真を撮るようになってしまった。ズームさえほとんどついてない低機能なカメラなのに。
写ルンですもまた、未だに作られて売られている。
15年前、顧客が本当に必要だったデジカメって、もっとシンプルなもの、A202のようなものだったんじゃなかろうか。
確かに顧客は、高倍率で画素数が多くてあれこれ機能が盛り込まれたものを求めたかもしれないけれども、そもそも正しいものをほしがってたんだろうか。
もちろん私も、高感度がいいとか広角が欲しいとか、色々要求していたけれど。
レトロなマクロ
写ルンですよりもFinePix A202の優れたポイントとして、マクロモードの存在がある。
それでこのマクロが、感心するくらいシンプルかつ合理的にできていた。
A202は、物理的なスライドスイッチでマクロモードに切り替える。
レンズが前に繰り出し、ピント位置が手前に近づく。おそらくレンズ前10cmの位置にピントがくるようになるようだ。(マニュアルでは8~13cmが撮影範囲だとある)
それだけなら単にレンズ前10cmを撮れるだけなのだけど、ここでストロボをオンにしてみる。
すると、開放でF4.6のレンズが絞り込まれて、F9.5になる。
フラッシュの適正発光量は、ISO感度と絞り値と被写体までの距離で決まる。
A202のマクロモードは、撮影距離10cmで決まってるし、ISO感度は100固定、絞り値もF9.5で固定。するとフラッシュをGN1程度に弱く発光させればちょうどいい。
なんとまあ、超シンプルに失敗しないマクロ撮影ができる仕掛けを実現してある。
こういう「マクロモードは絞り込んでフラッシュを炊く」というのは、古くからフィルムカメラでやってた手法らしい。この手なら、ほとんど電子制御なしにできる。
いやもう、21世紀のデジタルカメラという製品に、こんな昭和の機械式カメラの流儀が取り入れられてるとは。
……とはいうものの、A202はマクロモードにするとストロボモードが発光禁止になってしまう。
(厳密には、通常モードでAUTOまたは赤目防止発光モードになっている場合、マクロモードでは発光禁止に変更される)
この優れたストロボマクロを使うには、手動でストロボモードを強制発光にしなくちゃいけない。
むしろ、元々発光禁止でなければ全て強制発光にするほうが合理的と思うんだけど。
これは全然裏を取ってないんだけど、もしかして、そのへんを自動にしてしまうと、GOKOのMacromaxに使われていたユニバーサルフォーカスというやつの特許に引っかかるのかも。
ユニバーサルフォーカスって、まさにこのA202のストロボマクロみたいなものっぽくて。
使ってみた
さて、ちょっと公園で撮ってきた。
最近のコンデジからは消えて久しいけど、この頃は当たり前に、光学ファインダーがあった。
A202の光学ファインダーは、ブライトフレームもないようなシンプルなやつ。廉価モデルだし。
もちろん液晶ファインダーでの撮影もできるんだけど、このカメラなら一枚一枚構図にこだわるとか面倒くさいことをするより、光学ファインダーでたくさん数を撮っていくスタイルが似合うと思う。
特に水平をちゃんと出したい、というような場合であれば、液晶ファインダーで縦横を三分割するグリッドを表示するモードもある。
まあ、こんな仕様の割には、電源を切って入れ直すと必ず液晶オンで起動してくる。なぜか記憶しない。
DISPボタンが独立して存在するから、液晶を消す手間はほとんどないんだけれど。
写ルンですのように、ネガフィルムの懐の深さを活かして、適当に露光して現像・プリントで調整する……といった手は使えない。そこはデジカメだから仕方ない。
自動露出と、オートホワイトバランスは備わっている。
富士フィルムの仕事だから、古くてもまずまず調子がいい。やや日が低かったとはいえ少し黄色っぽい感じがするけど、この頃のFinePixは大体こんな感じだった。
特に電機メーカー系のデジカメだと、結構露出やAWBが怪しい製品があったもんだけど、下っ端といえどFinePixだ。
露出補正は-2.1~+1.5EVの0.3EV刻み。ただしメニューの中。あまり補正まで気にせず撮るのが似合うとは思う。
ホワイトバランスはオートほか6モードから選択できる。こちらもまあ、オート任せが似合うとは思う。
センサー感度はISO100固定。時代が古いから仕方ないのだけど、パンフォーカス機だからレンズはF4.6とかなり暗い。
晴天屋外ならいいとしても、ちょっと日陰ですぐ1/20秒とかになってブレるし、屋内なんかだと昼間でも1/6秒とかいわれたり。
ストロボは積極的に使っていくくらいがいいかと思う。
およそ超初心者向けのカメラなんだけども、スローシンクロがあったりもする。
周辺光量がけっこう落ちるのは愛嬌かな。
絞られれば解消するかもしれないんだけど、ISO100固定でF4.6からF9.5まで絞っちゃうので、相当明るくないと絞られない。
下手なズームレンズのカメラより、よく写ってるくらい。
センサーが200万画素だが、130万画素や35万画素に減らして使うこともできる。
そしてその場合、デジタルズームも使えるようになる。200万画素だとズームはできない。
まあこの頃は、光学ズーム3倍にデジタルズーム2倍を「6倍ズーム」といって売るようなメーカーもあったりしたもんで、それを思えばフジのこのデジタルズームの扱いはまだしも誠実かもしれない。
フジフィルムの固定焦点シンプルカメラは、FinePixとしてはA202が最後になってしまった。A203なんて、ふつーの3倍ズーム機だ。
傍流というか、APSカメラで人気があったnexia Q1のシリーズとして、Q1 Digital 4.0 Irという機種が出た。これは2005年の400万画素機で、確かこれが最後のはず。
やっぱりこう、低機能なカメラゆえの良さってのも、かなり偏ったマニアにしか伝わりづらい。動作の軽快さやバッテリーライフなどは、技術の進歩で力技で解決して行っちゃったし。
しかしまあ、高性能なモーターと電池とコンピューターがコモディティ化した現在、あえて極力頼らず、素朴なメカで動作するデジタルカメラなんて、あるなら見せてほしい。
単三2本で動いて、センサー性能だけは欲しいから裏面照射型CMOSを奢ってもらって。
レンズは換算28mmF4.5とかで、デジタル処理での収差補正は、やらないかオフにできるか。ちょっとくらい隅が流れたり周辺光量落ちはあってよし。
液晶モニターなしは無茶だけど、光学ファインダーは絶対ほしい。
まあ、そんな変なカメラ作っても売れないから、作るところないけど。