堺風の頭部

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小麦粉大さじ一杯の分解について

 先日見かけたバズツイートから。

 水500mLに大さじ一杯の小麦粉を溶いて洗車すると水垢がよく落ちる、というツイートに対して、「それは環境負荷が非常に高い」と指摘するツイートだった。

 

 でまあ、うーん、正直私には、「最初の方は正しいんだけど途中からちょっとレトリックで煽ってるな」という印象だった。
 普段はそれなりに信頼してみてるアカウントが肯定的にリツイートしていて、やはり誰でもわかる分野のことなら引っかからなくても、知らない分野だと、っていう。

 

 水500mLに小麦大さじ一杯溶いたものを洗車に使う=そのへんに流してしまう、という場合の環境負荷を、私が考えてみるとすると、どんなもんかな。

 

 まず、元ツイートでCODを持ち出していたから、そこから当たろうか。

 CODは化学的酸素要求量といって、その水に含まれる有機物を酸化分解するのに必要になる酸素の量のこと。
 要は有機物の量なんだけど、有機物も色々あるから、それをひっくるめて計るために、酸化分解に必要な酸素量を基準にしている。

 

 水中の有機物も、生物が生きるには多少あるくらいがいい面もあるし、ある程度までは好気性微生物が有機物を水と二酸化炭素に分解してくれる。
 しかしあんまり多くなってくると、好気性微生物が水中の溶存酸素を使い切って活動できなくなる。そうすると嫌気性の微生物が働き出すんだけど、これはメタンやらアンモニアやら硫化水素やらを出してしまう。
 いわゆる汚い川や池などはそういう状態。

 

 元ツイートではCOD(化学的酸素要求量)といっていたけど、これは試料を過マンガン酸カリウムなどの酸化剤で酸化分解して、それで必要になった酸化剤の量から酸素量を求める。
 他にBOD(微生物による分解に必要な酸素の量)、TOC(全有機炭素・試料中の酸化されうる炭素の量)といった量もある。

 機械で測れたりもするんだけど、もちろん私は持ってない。
 とりあえず机上の計算でいこう。

 

 小麦粉大さじ一杯8gという有機物を、水と二酸化炭素だけになるまで完全に分解するのに必要な酸素量は?

 小麦の主な成分はデンプン(C6H10O5)nが8割くらい。簡単にするために全部デンプンとしちゃおう。
 デンプンを完全に二酸化炭素と水に分解するのは、以下のような式が立つ。

   C6H10O5 + 6O2 → 6CO2 + 5H2O

 両側のCが6、Oが17・Hが10で揃う。

 

 デンプンの(C6H10O5)の部分ひとつに対して、O2が6分子必要になると。

 原子量をC=12・O=16・H=1とすると、(C6H10O5)は162になる。
 それが8gだと、8/162で、大体1/20 molほどの量。
 これに酸素(分子)を6/20 mol加えてやれば、デンプンを分解できるね。

 気体の場合はどの分子であっても1molで22.4L(標準状態・1気圧で0℃)だから、酸素6/20 molなら6.7Lくらい。
 重量でいくと、O2の分子量を32として、6/20 molだったら9.6g。

 大体元ツイートの出してる数字と同じになった。

 

 この先の解釈が、私はだいぶ違ってくるかな。

 

 小麦粉洗浄液は、500mLに8gの小麦粉を溶くという。
 1Lに対して小麦粉16gで、私の計算では19200mg/LのTOCになっちゃう。これも同じような数字ね。

 で、たしかに法が定める一般排水基準は、160mg/Lとされている。というか、日間平均では120mg/Lでなきゃいけないから、もうちょっと厳しい。

 

 この一般排水基準が適用されるのは、一日あたりの平均的な排出水の量が50㎥以上である工場または事業場に対して適用されるもの。

 適用される下限である50㎥=50,000Lの排水を出す工場で、COD上限値120mg/Lの排水を出してるとすると、一日分の排水の要求酸素量は6,000,000mg。6kgね。
 小麦粉8gを分解するのに必要な酸素量が9.6g、という計算からいくと、酸素6kgで分解できる小麦粉は5kg。
 クルマ一台を洗うのに、小麦粉8g / 水500mLの洗浄液で十分足りるらしいから、それを洗車1回分だとすると、小麦粉5kgあれば625台分作れる。

 まとめると、小麦粉洗車1回分は、環境基準が適用されるギリギリ最小量の排水に、ギリギリ最高値の小麦粉を溶かし込んだ場合に、一日に排出して許される量の1/625。
 あくまで環境基準は濃度で、私が今回問題にすべきと思ってるのは小麦粉の量だから、無理やり結びつけた感じはあるけれど、量で比較できるように揃えたらこうなった。

 小麦粉洗浄水1Lは、環境基準の100倍の濃度、それはそうだけど、話に量が入ってない。

 なのでまあ、別に小麦粉溶いた水でたまにクルマ洗うくらいは、そこまでヤバイというほどのことでもないようにも思う。
 食事や洗濯みたいに生活上頻繁に必要になることについては影響も大きくなるけど、洗車なんて週一回でも熱心だろうし。

 

 ネットで小麦粉洗車が流行ってしまえば、何千人とやる人が出てしまって、チリも積もれば危なくなっていくかもしれない。

 でも今だったら、家庭排水がどんどん川に流されてるような時代でもなし、そこまで大変なことにもなりにくいと思うけれど。
 小麦粉だったら毒になる生物もないだろうし、自然と生物に食われて栄養として消化されていくだろうから、下水道に流れなくてもそんな酷い結果にはならない。
 それが8gでしょ。
 何百人と一箇所に集まって次から次へと小麦粉洗車をしては立ち去っていく、というような異様な洗車場ができたりしたら、近隣の水質が危なくなったりするだろうけれど、そういう話じゃないでしょう。
 場所的にも時間的にも分散して、それぞれが8gずつ。その程度の話。

 

 1回の洗車との比較でいえば、子供がほとんど食べてないソフトクリーム100gをぽとっと落とした場合のほうがずっと大きな環境汚染をしてることになる。
 100gのハムスターが死んでしまったから、近くの川岸に埋めてお墓を作った場合も、小麦粉8gより大幅にひどい環境汚染をしていることになる。

 ほんとにやばい?