堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

前略、無敵の人より

 今回の事件でまた「無敵の人」なんて言葉を聞いている。
 確か秋葉原無差別通り魔事件の頃に生まれた言葉だったから、当然あの頃に想定されるのは25歳の加藤智大だった。私の3つか4つ下。

 今は42歳の犯人がそう言われている。私の3つか4つ上かな。
 私の前後4歳差ならロスジェネだし、世代論みたいにこじつけることもできるかもしれない。
 とはいえ、マツダの事件なんかはもうちょっと上の犯人だったし、単に経済的困窮が社会不安を生んでるだけのことかもしれない。

 立法府は人間と労働を買い叩くための法整備ばかり進め、行政は助けを求める住民を脅迫して追い返す有様で、人の口に自己責任論を蔓延させてりゃ、社会不安にならんほうがおかしい。現状くらいで済んでるのは、限界に至ったほとんどの人が粛々と自殺してるからだろう。

 

 まあ、私ももう会社勤めも諦めてる社会不適合者であるし、大体平日でも一日中家に居てネットにも現れる何をしてるかわからない人だ。結婚してるわけでもないから守る者もない。
 無敵になろうと思えばなれる身だから、あいつはいつスターを取るのかと、犯罪者みたいな目で見られる機会もあるんだろう。

 

 2013年に、「ぼっちゃん」っていう加藤智大を題材にしたと称する映画があったけど、私が生涯に見た中で最低かつ最悪の映画だったな。
 私は当時から、無敵になろうと思えばなれるような生き方をしていたもので、自分と加藤を分かつものはなんなんだろう、とずっと疑問に思っていたのだ。だから公開すぐに見に行ったさ。

 それがあのクソ映画、主人公の梶(=加藤)が派遣先で常習的殺人者に目をつけられて、殺人死体遺棄の片棒を担がされる、なんてろくでもないシーンを差し込んだ。
 あんなのを入れてしまったら、梶がああまで追い込まれた理由がただの特殊事例になってしまって、あの事件を描いたものではなくなってしまう。

 そりゃ、加藤が何を思ってやったかを正しく描けるはずはない。それでも、ちゃんと加藤を知ろうと、理解しようと向き合った上で何らかの見解を出したのなら、あんな馬鹿げたものになるはずがない。
 単に加藤のネームバリューを使っただけの映画で、見に行った第七芸術劇場は結構な混雑ぶり。もくろみ通りにいったもんだ。

 とまあ、5年も前の映画に未だに激怒できる。
 私ほんとに何の映画でも面白いとしかいわないのに、映画館を怒って出てきたなんて人生でこれだけだよ。

 

 加藤をネタにクソ映画を作られた、ということに激怒するのは、自分が加藤に近い側だと思うからなんだろう。
 自分の頭で考えて「近い」と判断してるよりも、さらにもっと近いのかもしれない。それで情動に直接出ているのかな。

 加藤やその他いくつかの、動機がわかりにくい凶悪事件について、世間の多くの人は「無敵の人」という言葉で、犯人と自分とを切断できるんだろうと思う。
 しかし私には、「無敵の人」でかえって接着される。無敵の人たらしめる境遇はかなり近いんだから。

 私も加藤に近い無敵の人予備軍であると認めたとして、じゃあ私が加藤を理解できるかというと全然そんなこともないから、また困る。
 もし何かやらかすとしても、無差別殺人ってことはないと思う。無差別殺人はわからない。

 

 あ、ここまで加藤の名前で書いてるとおり、今回の事件の犯人はまだ「42歳無職」という情報が出てるだけで、本当に彼が無敵の人かはわからない。一部でそういわれてるとは思うけど。
 それに、無敵の人犯罪はもっと、将来の閉塞感から人生もうお終いだと思い込んで、しかし自分をそこまで追い込んだ加害者を誰かに特定することもできず、誰でもいいからこの怒りをぶつけようと単に手近な人に攻撃してる、という感じで。
 今回は少なくとも、はてなの中で敵意を燃やして、はてな界隈の人を攻撃したのだから、無差別犯罪ではない。

 彼がやってたという行為が正しいか間違ってるかといわれれば、私にも異常には思える。彼を粛々と通報したのも、合理的な行動だったと私も思う。でも結果これだからなあ。どうにかしようがあったんだろうか。
 まあ、私ははてな文化圏の出来事や考え方はよく知らないから、これ以上わからん。

 

 私も無敵になりかねない方だけど、じゃあ、どういう犯罪を起こしかねないだろう。

 加藤のような無差別殺人というのは、理解できない。
 無関係な他人を攻撃するというのは想像もできないし、今までどんなに精神状態が悪かった時でも、そうしようと思えたことはない。
 これは特に深く考えなくても、ただただ、それはやらんとしか思えない。

 むしろ、明確な原因に対して復讐する事件だったら、私はやりかねないと自分で思える。
 私を危険な無敵の人だとすれば、私は憎んでる奴をやる。

 少し前、パワハラに耐えかねて上司を射殺した警官がいた。あの事件は、私があの立場なら同じようにやりかねないと思った事件だった。

 

 じゃあ復讐殺人を私が起こしてないのはなぜだろう。やりかねないと自分でも思うけど。

 復讐を考えるような事態というと、入った会社を酷いパワハラで辞めたというのは何度かあった。そんなのが何度かあるような人生を送っているのが無敵感あるけど、それはさておき。
 でまあ、今ちゃんと娑婆に居るから、これまで復讐殺人はしなかった。しようかと思いはしたけど。

 私は人からハラスメントなどを受けると、まず何より萎縮して行動不能になる。
 その場ですぐ怒ってやり返すとか、冷静に聞き流して影で侮蔑するような捌きもできない。ただまともに受けて萎縮する。人の悪意に弱すぎる。
 それでハラスメントが続けば、やり返したりもできずにどんどんテンション落としていく。ある程度を下回ると、とにかく原因から遠ざかる以外のことはできなくなる。
 それでまた私には、収入がなくなることがぜんぜん歯止めにならない。パワハラで自殺に追い込まれるよりは、収入切った方がマシ。お金に詰まって立ち行かなくなろうが、他人の悪意に潰されるよりはマシ。

 その後は一年くらいぐったりして、寝てるしかできなくなる。
 その間、あいつがやってたのは無理筋のパワハラだったと理解して、思い出し怒りをし続けてる。あいつはぶち殺しておかねば私の魂は救われん、くらいは考えてる。
 けれど、物理的に行動を起こす気力がない。
 誰かを殺そうとするなら、例えばまず、偶然出くわすのを待っても仕方ない。相手の行動パターンを調べていつ頃どこに現れるか推定し、待ち伏せないといけない。しかし、もうそれひとつだけでも面倒だ。他にいくつやることがあるかわからないが、そんな元気があるなら寝込んでない。

 なんとか心身が休まって行動能力を取り戻す頃には、さすがに改めて準備してあの腐れ外道を地獄の火の中に投げ込みに行こう、とまでは怒れなくなっている。

 

 まず萎縮して動けなくなって、後になってからしか怒れない私の情動は、考えてやってるものじゃなくて、外部からぶつけられるものに反応してどうしても起こる。まったく止めようがない。
 こんなメンタリティだと、パワハラ復讐殺人というのは、ちょっと実行できそうにない。

 だから、私が拳銃持たされてる警官だったら、というのは、さすがにかなり怖い。衝動的に撃ちかねないというか、自分としては緊急回避のつもりでやると思う。
 警官・自衛官と、あと刃物使う仕事はやらんほうがいいな。
 まあ警官とか自衛官とか料理人とか、その職に就くまでの訓練過程に耐えられんと思うけど。

 

 じゃあ、ネットで煽られた末に、回線の向こうの人を殺しにいくようなことをするかというと、どうだろう。

 私は、自分が侮蔑されているようなコミュニティにしがみついたりしないからなあ。
 はてな匿名ダイアリーで馬鹿にされてたら、「増田みたいなクソサービスはさっさと会社ごと滅びろ」と呪詛しながら、別のとこ行くと思う。
 まあ、私は明らかに回避性だからな。さっさと離れて、誰かを殺すほど恨みもしないと思う。

 まー、多分、私は低能先生にはならないと思う。
 なれない、というほうが正しいかもしれない。あんなに必死になれない。

 

 でもどうだろう、私は友人に恵まれてるからなあ。
 高校の頃から25年近い付き合いでいてくれてる面々もあり、20年前にネットで知り合って何度も会ってる面々もある。
 ネットでいつでも彼らと話せるから、他のネットコミュニティには執着する必要がない。

 もし彼らがいてくれなかったら、私も2chなりニコニコなり増田なり、どこかの匿名コミュニティにでも飛び込んで、必死でしがみつかなきゃならんかったのかなあ。
 私に友人がいなかったら、という想像は、上手くできない。

 友人がいなかったら私は誰かを殺していた、とは、あんまり思えない。
 友人がいるから私は人を殺していない、とも言えない。わからん。
 いるのが当たり前になってるだけで、彼らが絶大な抑止効果になってるのが自覚できないのかもしれないが。

 

 加藤や低能先生みたいな、ネットの特定コミュニティに執着した末に煮詰まった人に、いつでも話せる気の置けない友人がいなかっただろうか。もし居れば違ったんだろうか。(二重に仮定しててむちゃくちゃだけれど)
 私がネットのどこかに執着しなくて済んでいる、ということの理由ではあるんだけど。

 しかしなあ、私は単に運が良くて友人に恵まれただけだから、「友人作るといいよ、マジおすすめ」とかいったって無責任な話だ。

 

 まあ、加藤や低能先生に友人がいたのかも知らないのに、これ以上仮定して考えても意味ないな。やめ。

 あれこれ考えてみたけれど、さしあたり私が殺人に走ったりはしないかなー、と思っただけであった。最初からそんなつもりないぞ。
 他人が犯罪者予備軍の無敵の人だと思うかもしれないが、まあ、前からではあるし。