堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

サイレンススズカがちょっと怖い

anime-umamusume.jp

 「ウマ娘」、ゲームは始まらないがアニメは始まって、今期一番面白い作品になりそうな感じである。
 JRAの息がかかってるだろうから、マニー貰ってそうなクオリティですね。PAWorksにちゃんと払うもの払えばいいのが出てくるに決まってるじゃないですか。(悪いオタクの見本みたいは発言)

 

 私も昔、競馬好きだったものだ。
 好きだった期間のほとんどで馬券を買えない歳だったもんで、WINSには片手には余るけど両手で足りそうなくらいしか行ってないんだけどね。競馬ファンとはいえないかもしれないが。

 

 

 あれこれ書いてしまってから気付いたけど、私が見ていた時代は馬齢表記が古くて、デビューが3歳、クラシックが4歳だった。
 もう私の頭にはそれが染み付いているから、読む方でひとつずらしてほしい。

 

サイレンススズカがちょっと怖い

 ウマ娘のアニメだと、サイレンススズカがいい役をやっている。
 もちろん、競馬史上屈指の悲劇の名馬だから扱いの大きさはわかるけれど、やはり、いつか故障するじゃないかと怖く感じてしまうな。
 いつか、というか、スペシャルウィークがクラシックを走り、サイレンススズカ金鯱賞をぶっちぎったんだから、舞台は明らかに98年の春。
 史実なら、スペシャルウィークが走る菊花賞の翌週、秋の天皇賞サイレンススズカは死ぬ。

 まあ、ウマ娘に怪我からの予後不良がある理由がないから、まさか死にはしないと思う。「怪我でもう走れない」というだけにしても、まあ物語上の悲劇のシーンならつくれるだろう。
 しかしそれも、何か違う気がするんだろうな。といって死なれても困るし、どうすれば納得できるんだろう。

 

 私が競馬を初めて見たのは、94年の天皇賞秋。ネーハイシーザーが勝ったあの年だ。これは確か。
 やめたのは、はっきりしないが、おそらく2000年春競馬までのようだ。テイエムオペラオーは知ってるけど、勝ちまくってた頃を知らない。


 私が見ていた94年秋からの5年ちょっとの間って、競走馬がレース中の故障から予後不良、薬殺処分になるのが多かった時期でもある。

 Wikipediaの「予後不良(競馬)」にまとめられてるけど、95年宝塚記念ライスシャワー、96年京都牝馬特別ワンダーパヒューム、97年ドバイワールドカップホクトベガ、98年天皇賞秋のサイレンススズカと、毎年のようにG1馬が競馬場で死んでいた。
 たまたまのことかもしれないが、「馬場が固くなってタイムが出やすくなって、その分脚への負担が大きくなった」とか当時は言ってた記憶もあるな。

 

ライスシャワー

 ライスシャワーの事故のときには、私も何も知らなくて、脚を治せば、もう競走は無理でも種牡馬になることくらいできるんじゃないか、とか思いもした。
 ライスがきっかけで色々事情を教えて貰えることになったけれど。

 サラブレッドは、脚一本かばって三本足で立っていたら、その負担で残った脚の蹄が腐る。立てずに横になってたら、床ずれでぼろぼろになる。ストレスや痛みで内臓を壊すことも多い。
 テンポイントは、あまりに殺すのが惜しいから必死で助けようとして、結局余計に苦しめることになってしまった話も聞いた。サンエイサンキューの嫌な話も聞いた。
 ハマノパレードの件があってから、速やかに薬殺するのが情けだとも聞いた。

 

 私はライスシャワーは、まだ良く知らない馬だった。
 ミホノブルボンの三冠を阻止したときも、メジロマックイーン天皇賞三連覇を阻止したときも、まだ競馬知らなかった。
 知っていたライスシャワーは、すっかりスランプに陥って、もう燃え尽きた馬に見えていた。

天皇賞(春)(過去GⅠ成績) JRA

 正直相手が弱かったようにも見えるが、天皇賞を勝ってライスシャワーは「復活した」と思われた。
 次の宝塚記念を最後に引退して種牡馬になるはずが、というところで事故が起きてしまった。

 

 ライスだから悲しむ、というのは、まだできなかった。
 ただ、競走馬が死ぬとはどういうことか、知る切っ掛けになった。

 

ワンダーパヒューム

 ライスのときは何も知らない私だったけれど、ワンダーパヒュームは最初から見てた馬だった。
 95年の桜花賞を勝った馬。デビューからとはいわないが、クラシックから見ている。

 

桜花賞(過去GⅠ成績) JRA

 95年は「交流元年」。地方所属馬がクラシック出走も可能になっ  て、笠松ライデンリーダーが殴り込んできた。
 中央側の有力馬は、ダンスパートナープライムステージが有力馬だった。どっちも良血で、当然にスターになったような華やかなキャラだった。

 そんな錚々たるメンバーを振り切って勝ったのは印象深かった。
 ピンクの面子のパヒュームが早めに抜け出して、プライムステージが食らいつき、ダンスパートナーが飛んできたけど間に合わず。
 実況がゴール前で「ワンダーパヒュームプライムステージダンスパートナー!」という順番で叫んでいたのが耳に残ってる。

 その後、ずっとテレビで様子を見続けていた。
 オークスは距離合わなそうなのに3着に食い込んで、桜花賞はまぐれじゃないぞと思わせた。
 しかし秋以降どんどん調子を落として、惨敗続きの状態に。
 年が明けての京都牝馬特別、当時はGIの前哨戦などでもない、ただの地味な重賞。
 そんなところで死んでいってしまった。

 

 ライスシャワーは、かつての大悪役が復活した矢先、最後の花道を飾るはずのレースで、という劇的なところがあった。
 サイレンススズカも、芽が出なかった4歳から5歳になって、鮮烈な強さを見せ、これから快進撃するはずのところで死んでしまった。

 ワンダーパヒュームはまるで逆だからな。
 栄光が最初にあって、そのまま落ちて落ちて、力尽きるみたいに地味なGIIIレースで死んでいった。
 悲劇の物語になるような鮮烈なものじゃない、だからこそ、私にはワンダーパヒュームが辛いのかもしれない。

 

ホクトベガ

 エリザベス女王杯の「ベガはベガでもホクトベガ」実況は有名だったけど、あれは93年のことだから現場は見てなかった。

 最初に見ていたホクトベガは、芝でイマイチな成績で走っていた目立たない馬だった。
 フェブラリーステークスすらまだGIIだった頃で、ジャパンカップダートもない。ダートの強い馬がいても出るレースがないの。

 しかし、中央から地方のレースに出ることもよく行われるようになったり、また96年からドバイワールドカップなんて、超高額賞金のビッグレースが開かれるようにもなった。
 そのへん上手く活用して、95年に大活躍したのがライブリマウントという馬で、そして96年にそれ以上に猛烈な強さで日本中を荒らし回ったのがホクトベガだった。

 芝でもフラワーカップエリザベス女王杯を勝ってる馬ではあったけど、本当にダートのホクトベガは無敵だった。95年夏のエンプレス杯以降、ダート10戦全勝。
 テレビでは普段流れない地方のレースもホクトベガが出るならわざわざ放送された。地方競馬場ホクトベガが出るなら客席が超満員になった。

 11連勝目を、97年ドバイワールドカップで飾るんだとみんな思ってたのに、ゴールすることもなかった。

 

 有終の美を飾れなかったライスシャワー、燃え尽きたワンダーパヒューム、これから始まる全盛期の目前に斃れたサイレンススズカ、そしてホクトベガは全盛期の頂点で死んだ。
 芝でいえば、テイエムオペラオーが2001年の天皇賞春で死んだみたいな。

 しかし、意外と「悲劇の名馬」と扱われるシーンが、少なくともライスシャワーサイレンススズカより少ない気がする。
 まあ、悲劇の名馬などというには、弱々しく儚いイメージを持ち難いくらい、無敵の砂の女王だったとは思う。

 

サイレンススズカ

 で、やっとサイレンススズカだけど、なんだろ、正直言ってよくわからない馬だった。4歳の頃は評判倒れといえばいいか、勝てなかった。あの大逃げスタイルも確立できてなくって。

 5歳になって、化物みたいになった。

 ただまあ、私はへそが歪曲してるので、「別にぶっちぎりでもハナ差でも勝ちは同じ」「大逃げがハマっただけ」「相手が弱い」とか、宝塚記念まで難癖をつけ続けた覚えがあるなあ。
 宝塚記念は十分ハイレベルなメンバー相手に勝ちきって、もう難癖付け所がなくなって。

 秋になったら、毎日王冠グラスワンダーエルコンドルパサーを相手に完勝。どないするんやこんなんと。
 これから天皇賞ジャパンカップ有馬記念と薙ぎ倒していくのを見届けるしかないんやなー、っと思わされたところで、天皇賞で死んでしまった。

天皇賞(秋)(過去GⅠ成績) JRA

 あのレースを見返してみたら、そうだ、靄のかかった日だったな。

 

 別に、サイレンススズカが死んだことにがっかりして競馬を見なくなった、なんてことはない。
 ここまで長々書いたとおりで、別に好きな馬に死なれたわけでもない。
 けれど、毎年少しずつ気持ちを削られていったのも確かな気がするな。

 

 やっぱり、ウマ娘のアニメで、サイレンススズカが死ぬようなことはなかろうとは思う。
 というか、無理に死なせたら不快だ。サラブレッドだからどうしようもなく死ぬものなんであって、人型じゃそうなりようがない。

 しかし、いつも見ていた競走馬が突然レース中に止まった時の不安さ、後で予後不良だったと知らされるあの落胆、あれはだいぶ慎重に表現してもらえないと、納得できない気もする。

 怪我でもう走れない、というだけでも、物語上の効果は同じではある。競技者として退場はする。それは悲劇ではある。
 けれど、走ることに特化して人工的に作り上げられ、四本ある脚の一本ダメにしただけで死ぬしかなくなる、というサラブレッドがもつ異様さが、それじゃあっさり流れてしまう。

 おまえがホビーとして楽しんでる競馬は相当おぞましいものだぞ、と、馬が死ぬ時にはモロにつきつけられるのよね。
 それを四回見た(GIホースに限らなければもっとだけど)ことは、やはり競馬を離れた理由でないはずはない。毎年見せられたいもんではなかったな。

 

 ほんと、どう描くだろう。
 わざわざスペシャルウィークを主役にして、憧れの先輩としてサイレンススズカを置いたからには、下手な描き方をするつもりはないとは思うんだけれど。