堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

別冊宝島「貴の乱」読書メモ

  表題のを読んだ。

貴の乱 日馬富士暴行事件の真相と日本相撲協会の「権力闘争」

貴の乱 日馬富士暴行事件の真相と日本相撲協会の「権力闘争」

 

 さすがに最近もうトレンドから落ちて、テレビやなんやでわーわー騒いでる状態も過ぎたように思う。

 別冊宝島のムックによく掲載される、原田久仁信(「プロレススーパースター列伝」「男の星座」)の劇画が大好きなので、おもにそれを目当てに読んだ。

 

 本で語られているテーマは、まあ、まったく知らない話ではなかった。

 相撲協会に取り入って、パチンコの利権や国技館改修について種々暗躍していたK氏のこと、よく聞いていた話だった。
 九重親方千代の富士)がK氏と対立した結果、あれこれ裏から手を回されて理事を落選したこととかも、まあ聞いてた。

 八角理事長がK氏排除に動いて、貴乃花親方がK氏と関係が深くてどうにか排除させまいとしていたことも聞いていた。
 ここについては、北の湖理事長逝去直後の理事会の、議事録というか、話の内容をそのまま書き下ろすような形で公開されていて、暴露だな、という感じ。(読み物としては読みづらいけれども)

 まあ、K氏がやばいと聞いてはいたけど、具体的に列挙されるとすさまじいなと。本の前半は、みんなK氏関係のことだった。

 

 後半は、年寄株についての記事は面白かった。
 相撲協会が公益財団法人になるときに、年寄株が高額の金銭でやり取りされている状態を改めることになっていたのだが、あれやこれやで改まっていない。
 親方の一番弟子が襲名する牧歌的な時代から、バブルを経て年寄株がひとつの利権あるいは財産になってしまって、また株の持ち主と借りて名乗る親方とが別れたりもして、どうもこうも難しいようだ。
 相撲ファンとしては、別にどうにかできるわけじゃないにしても、認識はしておくべきところに思えた。

 

 後半の華はやはり劇画「モンゴル・コネクション 鳥取の惨劇」。
 相撲協会の中間報告書に基に原田久仁信が描いたものだから、ストーリーはわかってるんだけれど、やはり原田画の顔力というか。
 さすがに日馬富士はいささか悪く描かれすぎる感じもある、というか、凶器を持ったプロレスの悪役を描く時にいつもやるような描き方だった。
 さすがの筆致ではあるけど、妥当かどうかは、日馬富士が酒が入ると荒れる説もあり、しかし私はどっちかというと、指導(と自分が信じているもの)に熱が入りすぎて暴走した方かなあとも思ってるけど、どうだろう。
 それにしても鶴竜がいい。あの通り気弱でいい人そうな顔だけれど、絡む白鵬とキレる日馬富士のとばっちりを食わされ続け、それでも膝が悪いのに正座を強要される照ノ富士を泣き笑いで庇う。この劇画で一番味わい深い描かれ方をしていたように思う。
 また、基本的に貴ノ花側の問題についての話がほとんどの本だけれど、ここはあくまで日馬富士の暴行事件についてに絞られていて、貴乃花相撲協会に立ち向かうヒーローっぽくも受け取れる表現。世間的認識に近いというか。

 

 モンゴル互助会、要はモンゴル人力士同士で星を融通しあってるんじゃないか、という記事もあった。
 あるという噂は聞いているし、記事では、過去の場所の星を追っていったらそうとしか受け取れない、と例示していって、それなりに説得力も感じる。
 しかしどうだろうなあ、外形的にそう見えるという以上のことではないようにも思う。まして、日馬富士の暴行に至ったモンゴル人力士の集会が、そもそも八百長に乗ってこない貴ノ岩への制裁が目的だったのでは、というのは邪推の域は出ないかなあ……

 

 全体としては、噂として聞いていたことを詳しく掘り下げていく感じの話が多くて、読んで面白くはあった。
 ただ、ほぼ全編で貴乃花に批判的ではあるので、貴乃花にシンパシーを感じている方には「協会の息がかかってる」みたいに見える本だと思う。

 日馬富士事件で、貴乃花に理事解任と降格というやけに重い処分がくだされたことは、私も怪訝に思っていたんだけど、この本ではそこには特に触れていなかった。
 K氏絡みの黒い話があって、彼を擁護しようとした貴乃花にも問題はあると思うんだけど、日馬富士の件とは関係ないんだから、別件の罪状を乗せるようなことしてたらそれこそまずい。

 また、K氏の行状から見ると、貴乃花がそんなに彼に接近するのも少々不思議な感じはあるな。貴乃花の高潔そうなイメージが間違いなのか、別の何かがあるのか。
 北の湖理事長の次は貴乃花が理事長になると見込んでK氏が取り入った、というけど、どうも金で抱き込むのが手口っぽいし、それで貴乃花が釣れるとは思いにくいんだけどなあ。

 

 貴ノ花側だとまだ、宗教関係とか触れていない噂もあった。
 協会側にも、めくられたらまずい話もあろうと思う。
 でも貴乃花側の暴露話ばかりの本ではあるので、これだけをもって貴乃花が悪いとか、逆に協会の手先が出した本だとか判断するもんではなかろうと思う。