最近はすっかり、レトロなレンズで撮影して遊ぶならソニーEマウントにアダプターを付けるのが定番になってしまった。
以前は、M42を使うならPENTAXが定番かつ手軽だったもんだけど。なにしろ純正のマウントアダプターKが1000円だったし、ボディ側も古いレンズでできるだけ撮影できるように工夫してくれていた。
おかげで、タクマーなんかはあの時代に買い漁られてしまって、あの頃には捨て値でごろごろあったものが、最近あまり見かけなくなってしまった。
35mmF3.5も、今頃ぽろっと2000円で売ってたら、珍しいなと思ってしまったな。35、50、55、135mmあたりはよく転がってたと思うんだけど。
Super Takumar 35mmF3.5の概要
スーパータクマーレンズは、1961年に発売されたアサヒペンタックスS3とともに、完全自動絞りが実現したときに発売されたレンズシリーズ。
完全自動絞りというのは、今では完全に当たり前の、絞りを操作してもその時点では絞りが動かず、シャッターを切ったその瞬間だけ絞り込まれる、というもの。
完全自動になる前に半自動絞りというのもあって、シャッターを切った瞬間に絞り込まれるけど戻すのが手動。このレンズはオートタクマーの銘。
35mmF3.5は、前世代のオートタクマーの頃から同じレンズ構成らしいものがあるので、スーパータクマー化されて割とすぐにリリースされていると思う。60年代前半くらいには出てるかな。
ただしスーパータクマー35mmF3.5には前期型・後期型があり、前期型はF22まで絞れたが、後期型はF16まで。手元のは後期型。
さらに後にはSMCタクマーにも改良されて、長く使われた。
ざっくりと、50年くらい前のレンズとしておこうか。レンズ設計は60年前に近い。
レンズ構成は、こちらのサイトで見かけた構成図によると、昔の広角レンズらしい典型的な逆望遠(レトロフォーカス)型。
後群をどうするかが工夫のしどころだったらしいが、ペンタックスは凸凹(凹凸)のテッサーにしてると。
前に見つけたテレタクマー200mmF5.6はプリセット絞りだった。
スーパータクマーは全自動絞りが実現しているが、現代のデジタル一眼レフに取り付ける場合には有効にならない。
全自動絞りと手動絞りをレンズ側で切り替えることはできるので、手動絞りで使うことはできる。
当然その場合、絞るとファインダーが暗くなる。ピント合わせも細かくやりづらくなる。プリセット絞りが恋しい。
しかしまあ、撮影自体は簡単で、露出モードをAvにしておけば、勝手にシャッタースピードとISO感度で適当に露出を合わせてくれる。
せっかくだから、以前発見していたタクマー標準レンズ用のフードをつけてみた。Φ49のねじこみだから共通して使える。
APS-Cのカメラにつけたら、焦点距離は50mmちょっとだ。特にケラレなどの問題も生じなかった。
レンズキャップも、純正のかぶせ式はダメだけど、新しいバヨネット式のやつなら問題なく、フードの内側に取り付けられる。
実写
さて、適当に散歩がてら撮ってきた写真でレンズの性能に迫る。
この観覧車。
中央あたりを等倍切り出ししてみたが、さすがに2400万画素のAPS-Cのカメラには、ちょっと解像度足りないか。
もちろん、50年前のレンズに開放でカリカリに解像しろという要求がおかしい。
それから、なぜか絞り開放だと露出がややアンダーになる傾向があった。これはちょっと理由がわからない。
F5.6まで絞っただけで、これだけすっきりする。
画面周辺にはまだ少し甘い感じも残るのだが、ほんの少しだ。
F8だったら、隅々まで実にキリっとした写りになる。
50年前にこれだけ写るレンズを出してれば大したものだ。かなり引き伸ばしても耐える写りしてたんじゃなかろうか。
ボケもざわざわしていない。F8で最短0.45mくらい。
強いて言えば、絞り羽根がわずか5枚なもんで、点光源は見事に五角形を描く。
開放だと、ボケの縁取りが強くなる感じ。ちょっとうるさめになるのかな?
またレトロフォーカス型のレンズは近接撮影に弱い傾向があるらしく、この写真でも、ピントが合っているあたりもいささか甘い感じはする。(あくまで2400万画素を等倍で見たらの話で、先述の通り遠景でも開放だと解像しきらないが)
最短撮影距離0.45mは、やや長め。
とはいえ、APS-Cだと換算52mmくらいのレンズになっているから、0.45mでも十分寄れることになる。
冬の晴天で、一雨降った後ということもあって、空気が澄んでいた。そのおかげもあろうけれど、実にすっきりした写りをする。
このへんは、4群5枚のシンプルなレンズ構成が効いている気もする。
F5.6より絞ってしまえば、現代の廉価なズームレンズよりいい写りしてるくらいかも。
歪曲収差もありそうなもんだけど、これも強いていえば樽型歪曲してるかなあ、という程度。画面下の板張りがやや曲がってはいる。
フルサイズだともっと出ちゃうかな。
周辺減光も、開放の場合だけ、広い範囲になだらかに減光するのが一応わかる。F5.6だともうわからないな。
もしかすると開放でややアンダーになるのはそのせいだろうか。
ただ、時々ホワイトバランスが大きく転ぶことがあった。
モノクロが主流の頃のレンズなせいだろうか、AWBの判断を乱す何かの要素があるのかもしれない。
レトロなレンズだし、あえてモノクロモード。
でもって、いちいちピントも合わせず、F16まで絞って、F16の被写界深度指示位置に無限遠をあわせるようにピントを動かす。これでパンフォーカスになって、1.2m~無限遠くらいまでカバーできるはず。
それで撮ったのがこれ。
等倍で見ると、遠くのビルがピンボケしている。L版プリントくらいならぜんぜんOKそうだけど。
場外船券売り場を通りかかった。
船券なんて買ったことがなかったので、ものは試しと200円だけ買ってみた。1.6倍のワイドが当たって、320円になった。
多分もう船券買うことはないと思うので、これで勝ち逃げになるだろうな。
船券売り場の裏は、マリーナと漁港。ブルジョアとプロレタリアートと博打打ちが交錯する場所。
場外船券売り場へと向かう道、人通り少ない高架下、いかにも落書きのしどころというところに、やたらと見事なグラフィティが。
率直に言ってガラ悪い土地だから、ちょっとしたトタン板の壁くらいでもすぐ落書きされるところだけど、さすがにこの上に下手な落書きはされていなかった。
しかし落書きさせないために先にグラフィティを描いておくなんてクールな対策を、泉佐野市が思いつけるとも思いにくい。他のところでも、地元の子供に描かせたとかはあっても、こういうのは見覚えがない。
なんなんだろう……
というわけで、いいレンズだった。
同じ時期でも、35mmF2の高級レンズが存在したから、F3.5のこちらは普及品。
しかしPENTAXの普及レンズは、今でもその傾向があるけれど、スペックを落とす分だけ無理がない整った写りをしてたりするから、この35mmF3.5もそうなのかもしれない。