堺風の頭部

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テレタクマー200mmF5.6

 かつて大阪駅前ビルは、多数のカメラ店が集まる場所だった。
 今でも残る店は何店かあるのだけど、デジタル化の波やヨドバシカメラの進出などに押され、だんだんと店を減らしている。もう残るのは片手に余る程度。

 しかし、大阪駅前第2ビルの地下二階、よくあるレンタルボックスがあるのだけど、そこを借りている人がなんだか特異だ。
 妙にカメラ関係の出品が多く、しかもデジカメはほどほどにレトロなものが多い。
 これはどう見ても、かつて店を出していた人たちだろうな、と思いながら、梅田に行ったら必ず寄っている。

 で、今回見つけたのが表題の、Tele Takumar 200mmF5.6だった。
 古いレンズもそれなりに知ってるつもりでいたけど、記憶にない製品だ。200mmF5.6というスペック、あまりよくあるものでもない。なんだこれは? という感じで手にした。

 

 

テレタクマー200mmF5.6の概要

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 レンズを見ると、まず200mmの大望遠オールドレンズにしては随分小さい。
 おそらく60年代のレンズと思うが、そんな時代にフィルター径Φ49という細身の200mm。重さもわずか370gしかない。外径55mm・長さ113mm。

 同じ旭光学のレンズでも、60年代のタクマー200mmF3.5は外径75mm・長さ156mmで重さ900gと重量級。フィルター径Φ67。
 70年代に出たスーパータクマー200mmF4は、外径66mm・長さ136mmで550g。フィルター径Φ58。
 70年代の、おそらく小型化を狙ったレンズと思われるスーパータクマー150mmF4で、外径59mm・長さ95mm・重さ324gのフィルター径Φ49となって、やっとタクマー200mmF5.6より小型軽量になった。

 60~70年代のアサヒペンタックスは、望遠が充実していた。135・200mmはもちろん、300・400・500・1000mmまである。(なお1000mmはレフレックスレンズではなく、7.5kgもある大砲)
 大望遠は一眼レフでないと扱い難いから、他社のレンジファインダーカメラとの差をつける意味もあったのかもしれない。
 その中で、「大望遠なのに小型軽量」というポジションで製品化されたのが、200mmF5.6かと思われる。

 

 小型軽量にした分、レンズの明るさ・開放F値はかなり暗くなった。
 オートフォーカスの時代なら、70-200mmF4-5.6なんてズームレンズがざらにあるけれど、マニュアルフォーカスで暗いレンズはピントが合わせづらいから、暗めのレンズでもF4くらいが多い。

 ニッコールは初期でも200mmF4だし、キヤノンヤシカは200mmF4.5としていた。やはりタクマーはかなり思い切って暗くして小型化したようだ。

 

プリセット絞り

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 さて改めて外観写真を見ると、絞り輪が二重になっている。

 これは、プリセット絞りというものだ。

 

 現代の一眼レフは、絞りを操作してもすぐには作動せず、開放絞りのままで構図を決めたりピントを合わせる。シャッターを切った瞬間だけ、その設定値に絞り込んで露光される。
 これを自動絞りといって、実現するのは70年代。

 それ以前には、レンズの絞り輪を回すと、すぐそこまで絞り込まれる手動絞りだった。

 手動絞りで困るのは、絞るとファインダーにくる光が減って暗くなる。ピントが合う範囲も広がってしまって曖昧になり、どこにピントが合ってるかよくわからなくなる。
 そのため、ピントは絞り開放で合わせて、後から目的の絞り値に合わせてシャッターを切る、という手順を取りたい。

 

 じゃあ、当時のカメラで実際にそれをやろうとすると。
 まず露出を決める。内蔵露出計はないので、外付けの露出計を使うか、「晴れてるからF8で、速度はISO感度の逆数」というような目測で、絞りとシャッター速度を設定する。

 シャッター速度は、カメラ上部にダイヤルがあるから、それを見て設定する。
 絞りも、レンズに書いてある数字を見ながら、絞り輪を回して設定する。
 すると、ファインダーを覗くと、絞られていて暗い。ピントも合わせにくい。

 じゃあ絞り開放にしてファインダーを覗いてピントを合わせ、それから適切な絞り値に設定しよう……といっても、ファインダー覗いてたら絞り輪が見えない。困ったぞ、と。

 

 そこで役立つのがプリセット絞り。

 2つある絞り輪のうち、レンズ前方の方で絞り値を設定する。前方の絞り輪だけでは絞りは動かない。
 すると、後方の絞り輪は、前方の絞り輪で設定した値から、開放までの間で回せるようになる。後方を回すと、絞りが実際に動く。

 F8で撮影することにして、前方の絞り輪をF8にする。
 そして後方の絞り輪は開放にして、ピントを合わせる。合わせたら、後方の絞り輪を絞る方向に回していくと、前方と同じところで止まる。これでF8だ。
 あとはシャッターボタンを押すだけ。これでファインダーから目を離さずに撮影できる。

 レンズだけで完結している仕組みだから、ボディ側に仕掛けが要らないってこともあり、60年代には世界中で広く採用された仕組み。

 

 60年代に便利だったこの仕組も、70年代に入って自動絞りがポピュラーになると、特殊なものを除いて消えていった。

 ところが21世紀、ペンタックスは最新のデジタル一眼レフでも、60年代のレンズがまだ取り付けられるような、しつこいまでの互換性を維持した。
 流石に完全互換とはいかず、スーパータクマーの自動絞り機構はボディ側との連携が必要で、デジタル一眼に取り付ける場合は使えない。
 タクマー銘のスクリューマウントレンズは、すべて手動絞りで使わなきゃいけない。

 ところがプリセット絞りは、ボディ側には何の機構も必要としない、レンズだけで完結する仕組みだ。
 タクマーとデジタル一眼の組み合わせでは、レンズとボディが連携する機能は使えない。だけど、プリセット絞りには関係ない。

 そんなわけで、60年代の便利機構・プリセット絞りは、50年の時を経て、現代のデジタル一眼でも便利なものとして復活した。
 事前に絞りを設定しておいて、開放でピントを合わせ、そして撮影時に絞り込む。ファインダーから目を離さずに撮影できる。

 

準円形絞り

 手動絞りの利点として、絞り羽根の枚数を増やせる。
 自動絞りはちょっとしたバネで一瞬にして開閉できなきゃいけないので、絞り羽根の枚数は少なくなりがち。すると絞りの開口は五角形とか六角形になり、光芒の形に影響を及ぼす。

 自動絞りが当たり前の時代でも、あえてプリセット絞りを採用して絞り羽根を増やし、円形絞りにしているレンズもある。(コムラー200mmF3.5なんかは、16枚羽根の円形絞りだった)

 このタクマー200mmF5.6も、絞り羽根は10枚とかなり多い。
 深く絞ると十角形になってしまうが、F8くらいまではかなり円形に近い。

 

その他のスペック

 古いだけあって、最短撮影距離は2.5mと長い。
 あまりクローズアップ撮影ができるレンズではないなあ。

 

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 望遠は細かいピント合わせが求められることもあってか、ピントリングの回転幅が広い。
 マニュアルフォーカスのレンズはどれも広いもんだけど、それにしても、ほぼ360度ある。他の望遠レンズもこうなんだろうか。
 上の写真は無限遠近くに合わせられているが、すぐ左に最短の2.5mの表示があるのが写っている。一瞬困惑するわ。

 

 時代が時代で、ペンタックス自慢のSMCコートはない。見た感じ、時代なりのシンプルなコーティングしかしてなさそう。
 多分、逆光などにはあまり強くない。

 純正フードなんか手に入らないかな、と思ったけど、どうやら135mmF3.5と共通化されているようで、そっちはそこそこ出るらしい。探してみるか。

 

 レンズ構成は5群5枚と、さすがにクラシックな少なさ。
 検索すると、出処はよくわからないけれど、レンズ構成図も見つかる。こちらによると、いわゆるテレフォト構成で、大きく前に3枚・後ろに2枚。前がトリプレットっぽい凸凹凸、後ろに凹凸。
 多分古典的なレンズ構成なんだろう。古典的なレンズだから当たり前だけど。

 貼り合わせ面がないみたいで、バルサム切れはなさそう。

 

実写

 さて、K-70に純正のマウントアダプターで実写。

 絞り優先オートで撮影することにした。
 Kマウントの絞りA位置がないレンズだとマニュアル露出しかできないから、その点で実絞り測光ができるM42のタクマーレンズはかえって楽。

 

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 絞りは記録されないから記憶によるが、開放かF8かどちらかと思う。
 ちょっとだけ糸巻き歪曲があるようにも見えるが、困るほどには見えない。

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 等倍切り出しでこれくらい。カリカリとはいえないにせよ、50年前のレンズがこれだけ写ればなかなかのもんでは。

 

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 ボケ味はどうだろう、まあ普通?

 

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 最短2.5mという遠さで、クローズアップ撮影でもこれくらいまでしか寄れない。
 これはアレチヌスビトハギの種。いわゆるひっつきむしのひとつ。

 

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 これは多分20m以上離れているけど、無限遠から20mまでが45°くらいある余裕のピントリング。
 これは多分F8か11に絞った。

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 しかし同じようなカットを開放に開くと、水面の光芒にものすごい青の着色が。
 他のカットでも青いフリンジが出やすい感じがあって、画質の弱点らしいところはそこかなあ。

 

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 ねこ様。トリミングした。
 かなり警戒されて、200mmでもトリミングしないといけないくらいの距離までしか寄れなかった。

 このカットは多分開放なのだけど、F5.6とはいえ200mmもあると被写界深度が浅くて、結構ピント合わせがシビアだった。
 以前のPENTAX一眼レフでフォーカスエイドを当てにしても、なんだか随分おおらかな感じで使えないな、と思ってたけど、K-70ならかなりいい感じに使える。
 ……と思ったんだけど、撮影データをPCで見ると、200mmだとやっぱり少し前ピンかな、ってところ。
 以前は55mmでもファインダーで見て怪しいくらいだった覚えがあるから、かなり良くなってると思うんだけど。

 

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 前ボケ。いい感じの前ボケと思う。