堺風の頭部

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日馬富士と体罰のこと

 一連の事件、結局貴乃花親方がどうなるのかと思ったら、理事解任の決議と。
 加害者側の、日馬富士の処分は軽くなかったとは思うけれど、しかし最高責任者の八角理事長より、当事者である白鵬よりも、貴乃花親方のほうが重い処分になってる感じで。
 どうも、組織に逆らったことが重罪という話みたいで、いい気はしないなあ。

 組織のルールを守れ、という話がわからんとはいわんけれども、今回はどうだろう。
 10年前にリンチ殺人を起こした相撲界は、改革に取り組み続けていたはずなのに、力士の頂点たる横綱が暴行を起こして。
 しかも隠蔽とまではいわないけど、横綱も被害者の貴ノ岩も黙ってた、なんてろくでもない実態が表出したんだから、内々の話にしたら、もみ消すというか、大したことじゃないことにされて流されるのが容易に想像できるしなあ。

 これでは、今後とも相撲ファン続けていていいのか、と思えてくる。

 

 

 私は、暴力と威圧で人をコントロールするような教育と称するものは嫌いだ。
 自分も子供の頃にやられたんだけれども、被害が未だに解消していない。

 だから、10年前に時津風部屋でリンチ殺人があったとき、あれはすごく嫌だった。
 新弟子をいびり殺し、タバコの火を押し付けたような痕がのこる遺体を、遺族に無断で火葬して証拠隠滅しようとした、なんて、これより下はないくらいのことをやらかした。
 これが当たり前だと思っていたような世界が相撲界だったわけでしょ。

 あれから、続いて噴出した八百長と賭博の問題も合わせて、体質を改善するためにこの10年頑張ってきたもんだと思ってたんだけどなあ。

 それが日馬富士は、まだデンモクでぶん殴るような暴力を当たり前だと思っていた感じで。
 まして稽古場じゃなく飲み屋でそんなのやらかしてたんなら、横綱であれど引退勧告相当という判断も、実際に引退したことも、重いとは思わなかった。

 

 ただ、引退すると決めた日馬富士を、これ以上非難しようという気にもなれないところもまた、私の中にある。

 以前から、一門を超えて後輩力士にしばしば声をかけて相撲を教えるような面倒見の良さがあって、問題の11月場所直前にも、逸ノ城に指導したと話題になっていた。今回に限らず、前から何度もある。

www.nikkansports.com

 問題の日にも、最初は白鵬貴ノ岩に説教を始めたと。私が聞いてるその理由(白鵬から金星を取った貴ノ岩が「これからは俺達の時代」と吹聴していた、と、直接じゃなく人伝に聞いたから)が本当なら、なんか陰険なパワハラめいた絡みに感じられるが、日馬富士はそれを止めてたと。
 後輩いびりを楽しむような悪質な人間だとは、どうも思えない。

 

 なのに、デンモクでぶん殴るなんて凄惨なことをしでかす。
 なんだかここが繋がらなかった。

 思いつける理由は、私にはふたつだけだった。
 ひとつは、少し噂されたみたいに酒癖が悪くて、酔うと抑えがきかなくなる。本人は引退会見で否定していたけど、影響がゼロではないのかもしれない。
 もうひとつは、目下への指導でそれくらいやるのが、日馬富士の中でごく当たり前のことになっちゃっていたのではないかと。

 翌日に貴ノ岩のほうが詫びに来て、それで話が終わったと思っちゃったことも、普通に本場所に出場したことも、「あの件はあれくらい殴って当たり前だった」とナチュラルに思い込んだように見える。
 ちょっとどうかとは思ってたけど、引退会見で謝罪する対象に貴ノ岩を入れてなかったのも、そのせいかなあ。

 

 じゃあなんでそんな思い込みを得ていたのか、というと、やっぱり自分がやられてたからじゃなかろうか。

 時津風部屋の殺人事件が2007年。
 日馬富士初土俵を踏んだのが2001年1月。まだ殴る指導が当たり前だった時代じゃないかな。特に当時の安治川部屋が凶暴だったとかじゃなく、相撲界全体が。
 で、大問題が起きた2007年には、日馬富士はもう三役に定着して大関取りを狙ってたから、関取として大きく成功していた。

 私なんかは、教師の暴力から得たものよりも被害のほうが遥かに大きいから遠慮なく体罰はクソだと言い募るけれど、日馬富士だとどうだろう。
 指導に暴力が伴うのは当たり前、それで自分は成功した、とあれば、暴力を疑いづらいのでは。

 

 一方、貴ノ岩の入門が2008年末。
 時期的にも暴力的指導はしづらいだろうし、貴乃花親方もまた、弟子は殴るのが当たり前なんて考えてる古い体質にこそ反発するタイプだと思う。

 すると、日馬富士貴ノ岩、ちょうど時代の境目の手前と後ろにいるふたりの取り合わせだったのでは。

 およそ相撲界で発生しうる中で最悪というくらい酷い殺人事件が起きて、あわてて「暴力的指導をやめよう」なんて当たり前のことをやりはじめた、なんていう歴史が、日馬富士に災いしたようにも思う。
 もっと早くから暴力を問題だと認識して、徐々にでも暴力から離れた指導をする相撲界へと変えていけていれば、日馬富士もそういう指導のもとで育つことができたんじゃなかろうか。
 もちろん、日馬富士自身が2007年を境に「暴力はいけないものだ」と切り替えてるべきではあるから、「自分もやられていたから」で免罪しろとも思わないんだけど。

 

(と書いたそばからこんな記事も出たけれど) 

www.zakzak.co.jp

 

 私がどうも、「日馬富士が悪い、引退」だけで納得しきれないのも、じゃあそんな日馬富士に誰がしたんだ、そっちこそ問題だろうと思ってるからだったのかな。
 まあ、危機管理委員会の報告書も、「暴力容認の意識が残っていることこそ悪い」とわかってるみたいなのがまだしも幸いだけれど。(その後、相撲協会の特に理事会がわかってるのか疑わしくなったが)

www.nikkansports.com

 

 確かに日馬富士は悪い。それで、引退という重い処分。
 これは軽すぎるとも、引退なんか許さず解雇(追放と同義)しろとまでも思えないから、私から見ると相応の処分かと思う。
 鶴竜は、立場的にもとばっちり感もあり、でもまあ止めてほしかったとも思うし、減給1ヶ月分処分もまあわかる。照ノ富士の譴責も同じ。石浦は止めようがないよなあ……。

 白鵬は原因レベルで関わってる感じだけど、減給1.5ヶ月分だけ。少なくともとばっちりとは言い難いと思うが。

 日馬富士の指導者である伊勢ケ浜親方は、理事辞任。ただ協会からの処分じゃなくて、自分から辞任している。
 八角理事長も、給与三ヶ月分を返上。これも協会としての処分じゃなく自分から。
 自分から進んで、というのは一見潔いのだけど、相撲協会として処分しなかったともいえるからな。日馬富士には、自主的に引退した後にでも引退勧告相当と判断出したのに。

 で、貴乃花親方は、相撲協会の理事会で解任が決議されたと。
 それもテレビで公然と、「貴乃花が報告しないから、相撲協会は事件について警察から初めて聞くことになった」なんて言ってたけど、日馬富士なり白鵬なりがちゃんと報告してるべきだし、それが行われない体質なのがまずいんじゃないのか。
 あの会見は、もう相撲好きだなんて言いたくないな、と思わせるくらい嫌な感じを持ってしまった。暴力追放が主眼だとわかってるのか疑わしくなった。

 

 

 まあ、暴力を用いた教育って、不幸にする人が多すぎるな、とはつくづく思う。

 暴力を受けて上手くいってしまった人は、自分が指導する立場になっても同じようにしてしまうのは、ごく自然なことに思える。
 ましてスポーツ業界だと、プレイヤーがそのまま指導者に上がっていくコースが多い。相撲もまさにそうだ。
 それで日馬富士は相撲人生を壊したし、他にもいっぱい類例はあるな。

 暴力を受けて特に上手くいってない人でも、なんだか、自分がやられた分は下にやる権利がある、という感じになっちゃってる人も散見される。
 とはいえ、やったやつにやり返せよ、と他人が言っても本人には難しいだろうし、自分だけ我慢して暴力の連鎖を止めろといわれても理不尽に思うだろうし。

 私なんかも子供の頃に随分やられたけど、良い結果どころか、未だに他人から攻撃的な態度を向けられると萎縮するし、ストレスを強く感じる。社会生活上すごいマイナス。
 ひきこもりとかニートとかいう言葉が出来たのも、大体私らロスジェネ世代を指してのことだったけど、この世代はまだ小中学校でかなり殴られてた世代でもあって。
 私らの少し上で、尾崎豊聞きながら学校のガラス割りまくるような校内暴力ブームなんてのがあったから、それを制圧するために教師が過剰な暴力を行使するのが是認されていた。私らはその名残、自分に関係ないことで殴られまくったからな。
 ニートひきこもりの原因として、これが関係ないとも思えん。

 萎縮する分だけ、自分が目下に暴力やパワハラを働くのは避けたいという意識はあるんだけど、実際どうだろう。
 自分で当たり前だと思ってるのが、暴力的だったりパワハラだったりするのかもしれん。カっとなった時に急に出ちゃったりしないか。

 

 暴力にメリットなんてあるんだろうか。
 今殴ってるやつが、その行為にどれだけ害があるか考える、なんてめんどくさいことをしなくて済むことか。
 殴る以外に有効な指導法を考える、なんて難しいことをしなくて済むことか。
 単にサディズム満たせることか。

 私には、害悪以上のメリットなんてさっぱり浮かばないが、実在するんだろうか。しょうもない精神論じゃなく。