子供の頃に、夜に布団に入っていると、幻覚のようなものをよく見ていた。
うちの家は金銭的な問題があって親も精神的に余裕がなかったから、虐待とはいわないまでも、ヒステリックに詰られるようなことは頻繁にあった。
小学校はというと、幼稚園の時に先生がいじめを扇動したせいで、その力関係が引き継がれて、酷い目に遭っていた。そもそもうちの家は田舎町に他所から引っ越してきたものだから、土地の村社会から家ごと疎外されていた節もあり、そのせいもあったかもしれない。
そんなストレスのせいだろうと思うけれど、9歳10歳の頃から寝付きの悪い子だった。
親に電気を消されても、常夜灯の黄色いかすかな明かりで天井を見つめていた。
すると見えてくるのが、視界の真ん中をまっすぐ一直線に横切る、白い糸のようなもの。
じっと見ていると、ピンと張ったままでだんだん下りてくる。ゆっくりだけど、たしかに動いている。
これはすごく鋭いもので、手で触れたりしたら指が切り落とされる、そういうものだとなぜかわかった。
そして糸がそのまま下がってくると、自分の首の上にくる。首が切り落とされるんだろう。
下手に起き上がったら自分から切られにいくようなものだし、転がるなりして逃げようにも、怖くて身体がすくんで動けなかった。
結局、首が落ちるのを見届ける前にどこかで眠ってしまっていたらしく、気がつけば朝になっていた。
一度きりのことでもなくて、何度も何度もあった。
いつごろ収まったのかも覚えていない。ストレスだらけの生活は中学を出るまで同じ形で続いたから、何かこういう悪夢か幻覚のようなものを見る原因がなくなったりもしていない。
フィクションっぽい話ではあるんだけれど、出来事はみんな事実だし、私が見たものに関しては記憶にあるままだ。