堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

CD-Rが花形だった頃

 先日、デスクトップPCのBD-REドライブが力尽きた。

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 何しろモノがPioneerのBDR-203、BD-REドライブとしてはかなり早い時期、Pioneerでは市販初モデルというくらい古い。2009年ごろのものだ。
 7年は持ったBDR-203、さすがにモノがしっかりしていた。

 

 それで、私はまだまだ光学メディアを使うので、買い換えることにした。 

 以前、ノートPCをメインにしていた頃、BUFFALOのUSB外付けBD-REドライブを買って使っていたのだけれども、わりとあっさり壊れてしまった。
 やっぱり安いTSSTのドライブじゃ耐久性に欠けることを思い知ってしまったので、今度も信頼と実績のPioneer。

 

 

 しかし、BD-REドライブというのも、なんというか、買って楽しい商品ではなくなってしまったものだ。

 これといって機能に差はない……と、ちょうどUHD BD対応の有無が出てきてるけど、4Kディスプレイもなければ4Kで見たいソースもない私に、特に飛びつくべき機能でもない。

 値段もさほどは変わらない。多少Pioneerが高いけど、品質差の期待で十分払える程度の差。

 そもそもドライブ作ってる会社が数えるほど。Pioneer以外は、バッファローやらアイオーデータやらのは多分中身はTSSTあたりだろう。あとは一応LGとかPanasonicがあると思うんだけど。

 検討して選ぶような余地がほとんどない。まあ最近のPCパーツなんてほとんど全部そうなんだけど。

 

 ちょっと大げさにいうのだけど、私が90年代から見てきたコンピューターの世界では、光学ディスクが花形のポジションに居た時代は、かなり長かった。
 フロッピーディスクは、私は2HDディスクがコモディティ化してからしか知らなくて、「あって当たり前」のものだった。
 しかしCD-ROMが登場して、一気にコンピューターの世界を変貌させていったのは、まさにこの目で見てきたものだ。

 

CD-ROMの時代

 CD-ROMは、実際すごかった。

 なにしろ新しいPCのアーキテクチャがひとつできた。富士通FM TOWNSは、CD-ROMありきのパソコンだった。
 TOWNSは1989年に初代機が出たんだけれども、その頃、パソコンソフトはフロッピーディスクで配布されていた。
 1.2MBのフロッピーから、540MBのCD-ROM(初期は700MBもなかった)、二桁も容量が跳ね上がった。
 90年ごろだと、ハードディスクの容量でさえ100MBくらいのものだった。桁違いだ。

 しかしいきなりフロッピーの500倍の容量を使えるといわれても、困る。
 90年ごろのPC-98だと、画面表示は640x400ピクセルで4bitカラー(16色)。VRAMは128KBしかない。540MBのCD-ROMなら、非圧縮で4320枚ほど収録できてしまう。
 音だってFM音源とかPSG音源、そうでなければMIDIだから、データ量はごく小さい。
 動画といったって、当時のグラフィック性能やCPUパワーでは扱いきれない。

 そういうわけで、FM-TOWNSは、CD-ROMの大容量を使えるような、リッチなアーキテクチャになった。
 CPUにi80386を標準採用してOSも32bit化。グラフィックも512KBのVRAMに強化。またPCM音源も搭載した。
 グラフィックの色数は豊富で綺麗になりデータ量も膨らみ、サウンドもPCMサンプリングというデータ量を食う手法が使えるようになり、マシンパワーも「最低でもi386」と保証されるから動画のようなパワフルかつデータ量が膨大なこともやれるようになった。
 540MBというCD-ROMの大容量を使いこなすには、それくらいのコンピューターである必要があった。

  ちなみに私もTOWNSユーザーだったんだけれど、当時の大ヒットゲーム「プリンセスメーカー2」は、TOWNS版が最高のクオリティだった。TOWNSの豊かな機能を贅沢に使った素晴らしい出来。

 

 富士通FM TOWNSだけでなく、当時日本のPC業界を支配していたNECも、PC-98GSというCD-ROM機を出した。
 これは実験的に終わったけれど、「98マルチ」「98メイト」のPC-9821シリーズへと発展する足がかりになった。

 他に、ゲーム機もCD-ROM時代は華やかだった。
 元祖たるPCエンジンCD-ROM²は、いくらバブルだからっておもちゃには高価すぎて手が出なかったけど、それだけ時代を先取りしていた。FM-TOWNSより一年先、1988年発売だった。
 93年くらいにはCD-ROMがこなれて買いやすくなって、サターン・プレステはもちろんのこと、3DOPC-FX、Pipin@やらFM TOWNSマーティ、色々ゲーム機が生まれたものだった。

 CD-ROMの登場で、これだけコンピューターの有り様が変わっていったんだから、まったく力強かった。

 

CD-Rの時代

 90年代後半くらいに、CD-Rが現れた。
 さすがにCD-ROMなら雑誌の付録になるくらい当たり前の存在になっていたけれど、「自分で書き込めるCD」というのは画期的だった。

 PCのハードディスクも、数GBくらいの頃。
 Windows95時代で、グラフィックやサウンドの強化と共に取り扱うデータ量も増えた。プログラムも大きくなった。
 しかもインターネットの利用が始まって、「データをダウンロードして集める」という行為も行われるようになった。

 思えばこの頃は、いつもハードディスクの空き容量不足が厳しかった気がするなあ。
 私のようなマニア層の場合は、CD-R登場前からMOディスクやZIPディスクなどの大容量ディスクを使っていたけど、別にPC-98に標準搭載されるわけでもなく、所有者は限られた。

 そんな時代に、640~700MBもの容量をディスクに書き出すことができる、というのは、実に魅力的だった。
 それに読み込むだけなら、当たり前にあるCD-ROMドライブでよかったから、データの受け渡し・配布にも便利。
 代わりになるものもなかった。USBメモリーの普及は21世紀に入ってからだ。

 だから、90年代後半には花形商品のひとつになっていた。

 

 まあ、「普通は複製できない」という存在だった音楽CDやCD-ROMが、CD-Rドライブが市販されたために突然複製可能なものになっちゃって。
 当時ドライブが持て囃されたのも、その目的がなかったとはいい難い。

 そして音楽CDもCD-ROMソフトウェアも、コピープロテクトに血道を上げる時代が始まる。
 その点で、コンピューターの世界よりも、音楽とソフトウェアの方に変わることを強いた存在だったかもしれないなあ。

 

 CD-Rができたから生まれた、というハードウェアは、なんかあったっけ。

 すぐ思いつくのは、MP3を書き込んだCD-Rを入れると再生できるポータブルCDプレイヤーか。
 当時、MP3プレイヤーが登場してきていたものの、32MB程度しか容量がなかったりして、かなり音質か曲数を犠牲にしないと使えなかった。そこで700MBもあるCD-Rを使えれば、実に大量の音楽を持ち歩けた。
 まあ700MB分を通しで再生しきれるほど電池持たない、というのはさておき、決して非実用的ネタガジェットというほどひどくもない。aiwa末期に出たXP-MP3とか、あとはPCパーツ屋だったDiamond Multimediaの後身SonicBlueが出したRio Voltなんて、私は買って愛用していた。

 何か重大な見落としをしていなければ、まあ、CD-Rのハードウェアへの影響はそれくらいか。

 やっぱりソフトウェアの世界に影響が大きかった。
 大容量で保存性もいいからまっとうな意味でバックアップを取るのがすごく楽になったし、個人レベルで大容量データを配布できるようになったから同人ゲームやインディーズ音楽とかの世界を大きく広げた。カジュアルコピーという負の側面もあったとはいえ。

 

DVD-ROMの時代

 DVDも、90年代後半から出てきた。
 けれども、90年代後半のPCでDVDビデオを再生するには荷が重く、すぐにはPC用DVD-ROMドライブは普及していかなかった。
 ドライブが普及しないから、ゲームなんかでも「CD-ROM 3枚組」とかはあっても、DVD-ROM版はなかなか出てこなかった。

 2000年頃には、ぼちぼちPCでのDVDビデオも再生できるようになりはじめ、DVD-ROMドライブも広まり始めた。
 CD-ROM登場の頃のように、PCのアーキテクチャ自体が新規開発されるような、ダイナミックなことは起こらなかった。
 けれども、当時のPC、特にグラフィックカードなどでは、DVDなどの動画再生をグラフィックチップ側から支援する機能がウリになったりと、DVDの存在にハードウェアが引っ張られるような動きはあった。DVDのデコード専用カードなんかも出たし。
 いつの時代も、PCにとって最もヘビーな仕事は映像関係で、映像用の新型ディスクが現れれば当然PCも引っ張られる。これは地デジテレビのときもブルーレイのときも、ある程度は起きた。

 

 ゲーム機の方では、プレイステーション2が速やかにDVDに移行して、XboxもDVDになった。
 2000年当時、PS2が安いせいで単体DVDプレイヤーの価格が破壊されたらしいけど、「DVDならPCで見なくてもPS2で見れるからドライブいらない」という動きもあったな。

 

記録型DVDの時代

 記録型DVDが流行り始めたのは、2003年くらいかな。
 初期にはDVD-RとDVD+Rと規格が分裂したりもしたけれど、結局全部使えるドライブが増えていったのと、DVD-Rが主流になっていくことで落ち着いた。

 CD-Rの700MBもぼちぼち物足りなくなってきて、そこでDVD-Rは4.7GBと、6.5倍くらいになった。
 USBメモリーもまだまだ小容量で高価、買おうと思うような値段のものはせいぜい128MBくらいじゃなかったかな。比べるとまだまだDVD-Rのほうが保存にも受け渡しにも割安だった。

 

 DVD-Rも登場からかなり時間が経っているけれど、今でも光学ドライブがついてくるからにはDVD-Rには対応するのが当たり前、という感じ。
 少なくともCD-R登場時ほど持て囃されたイメージはないけれど、CD-Rの自然な後継として、自然に現れて、自然にスタンダードになった感じ。
 DVD-Rができたから何か新しいことができるようになったかというと、特に心当たりがない。特にDVD-Rがコンピューターの世界に大きな変化をもたらした記憶はない。

 CDと違ってDVDは基本的にコピープロテクトされているし、勝手に解除すること自体が違法行為にもなっちゃったから、コピー需要もそれほど大きくはないと思う。

 

BD-Rの時代

 一応Blu-rayHD-DVDが争った時代はあるんだけど、あれはまあ、PC用として特にHD-DVDBlu-rayと戦いになった形跡もないので飛ばして。

 BD-Rは、まあ私が早めに買ったのが2009年、一応あの頃には普及は始まっていたといえばいえる。
 ただ、BD-Rって、2017年の今になっても、DVD-Rのようにあって当たり前というほど普及していない。
 そもそもPCに光学ドライブをつけないことが増えた。映像はオンデマンドで見ればいい、データはクラウドに預ければいい、受け渡しはネット経由かUSBメモリー。
 あの時代に唯一無二だったCD-Rに比べれば、そりゃ存在感も薄くなるだろう。

 

 CD-ROMは、主流のリムーバブルメディアだったフロッピーディスクの500倍、ハードディスクの数倍の容量で現れ、コンピューターを変えた。
 CD-Rの出始めた1998年なら、4GB程度のハードディスクを使っていた。700MBを書き込めるなら、ストレージの18%もある。
 DVD-Rを2003年で見ると、ハードディスクは80GBくらい。そこに4.7GBのディスクだと、6%の容量。
 ではBD-Rの始まりを2010年とすると、もうHDDは1TB時代だから、25GBあっても2.5%でしかない。
 まあ、容量の問題だけではないけれども。

 CD-ROMは時代を変えて、CD-Rは誰もが欲しがり、DVD-Rはあって当たり前のものにはなれたけど、BD-Rはあってもなくてもいいものにしかなれなかった。
 仕方のないことでもある。
 同じように、一時は面白かったけど廃れていったものもいくらでもある。単体の有線LANカードとかサウンドカードを、たくさんの選択肢から選んで良し悪しを吟味した時代はもう終わって久しい。

 まあ私は、写真を撮りまくるし、書籍の自炊もやるなど、自分でデータを作って増やしてしまう習性があるから、保存性のよくて十分な容量がある記録媒体としてBD-Rは手放せない。USBメモリーやハードディスクじゃ保存用には向かない。
 BD-Rが廃れるとき、バックアップを取れるメディアがもはや世の中に存在しなくなったりするまいか。業務用のテープドライブ買うしかなくなったりして。
 今の段階ですでに数百GBある写真と書籍、レガシーと化したBD-Rをずっと抱えていないと再生不能に陥ったりするんだろうか。

 CD-ROMの華やかな過去を思い出すと、BD-R以後は暗いだろうとしか思えず、なんとも寂しい。