堺風の頭部

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同姓同名の立候補者について

 2021年の衆院選、島根一区に無所属新人の「龜井彰子」と、立憲民主党の「亀井亜紀子」が並び立つ事態になっていて、話題になっていた。選挙公報に載ってるなあ。

 突然300万円の供託金を払って、特に政治活動を行っていたわけでもないらしい方がなぜか立候補して、それが野党統一候補と同姓同名というのはあまりにも出来すぎじゃないか。
 まあ、正直私も異様に思いはした。

 

立候補は自由ではある件

 しかしながら、日本国が民主主義国家のつもりでいるなら、別に突然思い立って立候補してもなにも悪いことはなく、同姓同名だから遠慮すべきだというならそれは人権侵害というものだ。
 仮に、龜井彰子さんが立憲の亀井亜紀子への投票を混乱させるために立候補していたとしても、内心のことであれば証明はできない。というか、龜井彰子さんがその目的で立候補していたとしても、多分問題ない。
 ざっと公職選挙法を見てみただけで正しい自信はないけど、「当選目的でない立候補を認めない」といった規定はなさそうだった。外山恒一氏が「私が当選したら奴らはビビる。私もビビる」と、当選できないことを自覚した政見放送をやったけど、別にこれで罰せられてはいない。

 供託金が、みだりに立候補するのを食い止める役割もあるっぽいけど、払ったんだから仕方ない。
 仮に供託金を自民党や関係者が出してたとバレたとしても、それでもなお「自民党立憲民主党候補の当選を妨害するために行った」と認定するのは難しいように思う。

 

そもそも必要なのかの件

 仮にこの自体が自民党による選挙制度の悪用だと仮定しても。
 保守王国島根1区自民党候補は細田博之で、幹事長や大臣も何度も勤めた大物。別に対立候補にセコい嫌がらせ仕掛けなくたって勝てるだろ、という感じもある。
 民主党旋風が起きた2009年にすら、4万票差・惜敗率65.9%で小室寿明を下しているんだから、なかなか力負けは考えづらい。

 ……のだけど、自民党は高齢の候補に比例での重複立候補を認めないから、細田博之も万が一にでも選挙区で落ちたら復活なしで下野。
 前回2017年の選挙では、共産党が候補を立てず、非自民票が亀井亜紀子に集中して3万票差・惜敗率68.35%まで詰め寄られた。まだまだ差はあるが、2009年よりも小差。
 それ以前は、対立候補の比例復活すらなかなか許さない圧勝を続けていた。前回は亀井亜紀子の比例復活を許してるんだから、差は詰まってる。
 自民党への逆風の強さ次第では、万一がないとまでは言えない感じもある。

 細田博之が何らかの手を打ったとしても、おかしいとまでは思えない。手段がどうかはまた別の話だから、これが陰謀だといえるわけじゃないけど。

 

同姓同名候補の前例

www.nhk.or.jp

 漢字までほぼ同じの「鈴木かつみ」氏がふたり立候補する、という事例が、勝浦市議会議員選挙であったらしい。
 こういう場合にどうしたのか。

 投票用紙には原則的に候補者名以外のことを書くと無効票になる、と公職選挙法(68条)にある。しかし「職業、身分、住所、敬称の類」は書いてもよい、という例外規定もある。
 そこで、両候補の住所をとって「うえの鈴木」「さの鈴木」と書いてもらうことで区別することになった。幸い、うえの候補やさの候補も出馬していなかった。
 また、投票所の候補者一覧も、特にこのふたりだけ住所を記載すると不公平なので、全候補について住所を併記する措置をとった。

 選管が法に触れない範囲の裁量で、公平確保の措置をとったわけね。

 結果、うえの鈴木788票、さの鈴木241票、どちらかわからない疑問票39票となった。
 仮に疑問票がすべてさの鈴木票になったとしても、当選ラインが434票で結果は変わらなかった。

 

島根の選管は対応すべきなのか

 少なくとも公示後一週間を過ぎた10月24日、特に島根県の選管は対応を表明していないらしい。
 龜井彰子と亀井亜紀子で、下の名前の漢字は明確に違うから、書き分けろということなのかな。

 

 城山三郎の小説『男たちの好日』において、主人公の牧玲睦(まき・れいぼく)が選挙に出馬するも、同姓同名の対立候補を立てられる、というエピソードがあった。
 牧玲睦と同姓同名ってどういうことなんだろう、そんな奴いるかな、と、私も珍しい名前だから首を傾げていた。
 しかし、牧のモデルは昭和電工創業者の森矗昶(もり・のぶてる)で、漢字が極端に難しいのに同じ読みの人ならいる、という名前。これなら同姓同名候補を立てる嫌がらせが有効に機能しそうだった。ひらがなで書いたら疑問票になってしまう。
 これなら実際に選挙でやられててもおかしくないな。

 

 龜井彰子さんと亀井亜紀子、そりゃ知ってれば書き分けられる人が大半だと思うけど、「亀井亜紀子に投票するつもりで、龜井彰子候補を知らずに投票所に来た」というような人は、かなり面食らうように思う。それほど熱心に選挙報道などチェックする人ばかりでもないし。
 不必要に勘違いを増やさないために、なにか手を打ってもよかろうと思うけれど……。

 投票所の候補者一覧には、「立憲民主党 亀井亜紀子」と「無所属 龜井彰子」になるだろうから、そこで区別もできることはできる。
 でも多分「立憲かめい」と書いたら無効になる。公職選挙法68条6項(無効投票)「公職の候補者の氏名のほか、他事を記載したもの。ただし、職業、身分、住所又は敬称の類を記入したものは、この限りでない。」だから、政党名は書いたら無効になる。
 これは立法のことだから、行政機関である選管にはどうしようもないな。

 「立憲かめい」は誰に投票する意思を示してるかは明白なのに無効票になるんだから、それは法の方に欠陥があるように思うなあ。意思をもって投票されたものはできるだけ有効にされるべきでしょ。
 小選挙区制の今は特に、同じ政党が同じ小選挙区にふたり候補を立てることはまずないだろうから、区別のために政党名を含めてよしとするのは悪くなさそうだけど……。

 

リスト式の投票用紙について

 日本の選挙って、「公職の候補者の氏名を自書しないもの」は無効、と定められている。公職選挙法68条7項。

 投票用紙に候補者一覧を印刷しておいて、印をつけて投票するようにすればいいじゃないか、と、前からいわれてるところではある。
 将来的に電子投票になったら選択式にすることになると思うけれど、法改正が必須だなあ。

 

 しかしこの、龜井彰子さんと亀井亜紀子が並び立ってしまう事態を見てみると、印をつけて投票する方式は、こういう場合には好ましくないな。
 有力候補に入れるつもりで、有力でない候補にいれる誤りが確実に増える。もう単純な勘違いで。しかもそれがそのまま有効票にカウントされてしまう。

 現行の氏名自署だったら、明確に「亀井亜紀子」か「龜井彰子」(亀の新旧は区別されないと思う)と投票された票の割合に応じて、「かめいあきこ」「亀井あきこ」「かめい」「あきこ」などの疑問票を按分する。
 おそらくこの方が、間違って違う人に投票してしまうケースは減るはず。チェックじゃなく名前を書くほうが掲示されてるリストをちゃんと見るだろうし、完全に間違って書いた場合しか錯誤のある有効票にならず、曖昧なら按分。

 

 ただまあ、あまりにも疑問票が多すぎると問題が生じる。

 龜井彰子1票、亀井亜紀子99票で、疑問票が1000票あったなんていう無茶苦茶な状態になってしまった場合を考えると。
 亀井亜紀子の落選を目的に、細田博之じゃなくて龜井彰子に1票を投じる人がでると、按分で亀井亜紀子から龜井彰子に10票くらい動いてしまう。細田博之に投票するよりはるかに有効になってしまう。

 まあ、有効票より疑問票のほうが多いという馬鹿げた事態でなければ、細田博之を通したいなら細田博之に投票するのが最適、となるから、まずありえない仮定でしかない。
 けれども、アホみたいなことからできるだけ遠くあるように、疑問票ができるだけ生じにくい仕組みにしてるべきだと思う。

 といってリストにチェック形式だと、勘違いがそのまま有効票になってしまうから、それはそれで極力回避すべきなんだけど。

 

 いっそ選挙公報の内容をそのまま投票用紙に掲載して、投票する候補にチェックつけるとか。わかりやすいぞ。
 それが無理なら小さいサイズに情報をまとめたものを候補者に提出させて、それを投票用紙に掲載してチェックつけるとか。気分はコミケのカタログチェックだ(もっと候補者カットが大きいほうがいいと思うけど)。

 国会議員選挙ならともかく、市議選くらいの選挙公報、ほんとに酷いのがあって、現職でさえ「この人まともに文章書けないのか」と思わせるくらいのもん出してる場合すらあるからな。誰も読んでないと思ってるか知らんが、私は読む。
 投票用紙に掲載されるとあれば、そんなに雑なものは作れんだろうし。

 

龜井彰子さんが亀井亜紀子を落選させたいなら

 仮に龜井彰子さんが亀井亜紀子を落選させる目的で立候補していたとすると、龜井彰子さんはどんどん選挙運動をして、少しでも票を獲得することを目指すべきよね。
 正しく「龜井彰子」と投票された票が増えれば増えるほど、疑問票も亀井亜紀子から多く奪い取っていける。

 ちゃんとした行動をするほど他の候補の得票を減らせる、と言ってるみたいで、なんかおかしい気もするけど。

 

 今回だけの立候補でないのであれば、今のうちから「亀井あきこ」とか「かめいあきこ」とかかな書きの通称を広めていったらいいかもしれない。
 そうすれば、次回以降には通称としてかな書きの名前での立候補が認められるかも。

 

 亀井亜紀子は通称で「かめい亜紀子」と届け出してあるっぽいけど、もしかして今回は「かめい」で亀井亜紀子票になっちゃうのかなあ。まさかそんなこともないと思うけど……。

 

陰謀が成功したら

 仮にこの事態が細田博之による陰謀だったとして、謀略が奏功した場合は。
 「亀井亜紀子が勝っていたはずなのに、疑問票の按分によって龜井彰子に票が流れてしまい、細田博之が逆転する」というのが有効な成功。
 あるいは「按分によって亀井亜紀子惜敗率が下がり、比例復活当選ができなくなる」も成功といえそう。

 そんなことになったら、裁判沙汰にでもなるのかなあ。

 ただ、その場合の亀井亜紀子が、誰をどういう法令違反だとして訴えるのか、ちょっと思いつかなかった。
 細田博之・龜井彰子を訴えるといったって、法令違反があるのか私にはわからない。憲法上の権利を行使しただけとしか言えないように思う。
 選挙管理委員会が公正な選挙を実施しなかった、ってな線でいけるのかなあ。公職選挙法とか地方自治法になんかあるんだろうか。

 

 まあ、陰謀が成功する事態が、まず起こりそうにない。
 じゃあ何のためにやったかわからない、故に陰謀でもない……と考えるところか。

 でも、亀井亜紀子の得票を一票でも減らせば成功、という見方もあるから、陰謀ではないと断言するほど強くもないけれど。