私は競馬見る時は血統表を眺めるのが好きなのだが、見てるとどうにも落ち着かない馬名つけられてる馬をよく見かけたものだった。
父親にあたる種牡馬の名前を取って名付ける、というのは非常によくある話で、サンデーサイレンスの産駒に○○サンデーとか○○サイレンスはうじゃうじゃいた。
ブライアンズタイム産駒の冠号+ブライアンは、ナリタを筆頭に、アグネス・イシノ・オグリ・シルク・ダイワ・タガノ・タニノ・ダノン・テイエム・ノボ・フサイチ・マイネル・マルブツ・ヤマカツと有名冠号がうじゃうじゃいる。
しかしその、親の名前の取り方がおかしい例が、ちょくちょく見られる。
サーペンフロの場合
80年代くらいに供用されていた種牡馬にサーペンフロというのがいる。
アイルランド出身で、アイルランドダービー3着、G2とG3を勝ったくらいの地味な馬。名馬Sir Ivorの産駒で、Sir Ivorの全弟ロードリージが日本で種牡馬としてそこそこ活躍したこともあってか、日本に買われてきた。
サーペンフロ産駒は、オグリやタマモクロスと同じ頃に走って、日経賞などGIIを勝ち、天皇賞春2着、GIの入着6回という名脇役ランニングフリーがいる。種牡馬入りして弥生賞を勝ったランニングゲイルを出して見せた。
他にもスプリングS・函館記念のサーペンプリンス、京阪杯・毎日杯のマルブツサーペンなど複数の重賞勝ち馬を出した。
ただその、サーペンフロはサーペン・フロではなくて、Sir Penfroだから、サーペンで切ったらおかしい。ナリタブライアンの産駒にナリタブプリンスって名付けてるみたい。
Sportsnaviで、父サーペンフロで馬名に「サーペン」を含む馬を検索してみると、27頭もいる……。
ペンフロ、を含むのが正しいんだけど、父サーペンフロで馬名に「ペンフロ」を含む馬を検索したらヒットしない。ずっこけるわ。
競走馬のような大きな買い物をして、競馬場で走らせるべく名前を付ける、その親になった馬の名前を取る、そこでスペルも調べず使っちゃうというのは、なかなか貧乏人にはわかりづらい感覚。
オウインスパイアリングの場合
オウインスパイアリングは、86年にアメリカで走ってG1を2勝、90年に早々と日本で種牡馬になって、93年に早々と死んでしまった。あいにく、産駒にも重賞勝ち馬は出なかった。
で、子がどうにも変な名前になりがちだった。
父オウインスパイアリングで馬名に「オウイン」を含む馬を検索すると、5頭。オウインが3頭、オウインスが2頭。三国志の王允から取った可能性とかもあるかもしれんけど。
馬名に「リング」を含むのは5頭。まあスプリングは親の名前と関係ないとして。
これはAwe Inspiringだから、オウインとかオウインスとか、あるいはスパイアリングとかリングで切ったらおかしい。
「インスパイア」で取ってたら正解なんだけど、ヒットしなかった。
プルラリズムの場合
プルラリズムは、80年アメリカ生まれ、フランスでG3を3つ、GIリュパン賞3着という成績で日本で種牡馬入り。
代表産駒は難しいとこだけど、ヤマノカサブランカあたりかな。重賞こそ買ってないものの、91年の桜花賞でシスタートウショウの2着に飛び込み、エリザベス女王杯でもリンデンリリーの2着。
GIIIクラスの勝ち馬は複数だしていて、小倉3歳ステークスのテイエムリズムなどがいる。
でまあ、やっぱりプルラ・リズムじゃなくてPluralisme、多元論とか多元主義という意味の政治哲学方面の用語。
父プルラリズムで馬名に「リズム」を含む馬は42頭。うん。
「プルラ」を含むだと3頭。プルラ #とは
まあでも、プルラリズムなんて私も知らない単語だったし、あまり馬主さんを馬鹿にできるものではないかもしれない。プルラって何? と思わんかったのかなとは思うけど。
アレミロードの場合
アレミロードは、アメリカ生まれでイギリスで走り、ジャパンカップにも来てジュピターアイランドの2着、アメリカとドイツでGIを勝った。
種牡馬としては、中山グランドジャンプのメジロファラオを出したり、ダートの活躍馬メイショウモトナリとか、早熟に走って京成杯3歳Sを勝った馬を二頭(ヤマニンミラクル・ヤマニンアビリティ)を出したり。
それから北関東の地方競馬で活躍、廃止が迫る宇都宮競馬を代表する存在だったベラミロードを出している。
で、アレミロードのスペルはAllez Milord。
例によって父アレミロードで「ロード」を含むのが34頭。そのうち、「ミロード」を含むのが4頭。
ベラミロードは正しいかもと思わせて、これは冠号がベラミなのでベラミ・ロードと名付けられている。
とはいえ、そもそもmilordという語からして、おそらくMy Lordからくる語だから、別にロードで切ってもおかしくはないともいえる。
しかしさすがに、「アレミ」を含む のが3頭いるのは流石に……と思いきや。
アレミラージュという名前ならアレ・ミラージュだろうし、アレミゼットもアレ・ミゼットでもおかしくない。明らかに「アレミ」なのはアレミオブユー一頭だけ。
意外と間違えられてない父馬といえるかもしれない。
ノーアテンションの場合
ノーアテンションはフランスで33戦6勝、GIタイトルはないけど、とにかく2着が多くて14回。ドイツGIオイロパ賞も2着。その他重賞2着も多数。3着も6回。障害も8戦走って2勝してる。
あまり冴えない成績だけれど、日本で種牡馬入りすることになり、それで飛び出したのがスーパークリーク。しかし勝ちまくったのはこれだけで、重賞を勝ったのは日経賞を単勝355.7倍で勝って馬連2133.7倍をつけたテンジンショウグン、スプリングSのモガミナインくらい。
重賞勝ってないけど天皇賞2着のミスターアダムス、ダービー3着のコクサイトリプル、宝塚記念3着のタイイーグルなど、勝ちきれない親に似たようなのは他にも。
でまあ、この名前ならNo Attentionで間違えないと思うのだけどな。なんでそんな名前に? とは思うけど。Pay no attention to him(あんな奴ほっとけ)
それでもノーア・テンションだと思ってノーアと取った馬が2頭。なんで……。
テンションで検索すると29頭、アテンションで検索すると15頭。差し引き14頭がテンション。
アテンションと取った馬は、全15頭中1勝以上できた馬が11頭で、勝ち上がり率73%。しかも4勝してオープン特別のなにわステークスを勝ったアテンションリバーが出ている。
テンションと取った馬は、14頭中5頭しか勝ち上がってないから勝ち上がり率半分以下。一番良かったテンリーテンションも、特別勝ちはなく平場3勝だけ。
やっぱり名前はちゃんと扱うべき。
パーフライトの場合
パーフライトは、1981年生まれでアメリカのG2をひとつ勝ち、G1の2着3着があるくらいの馬。日本では定着しなかったMan o'War系種牡馬を入れてみたのかな。日本人がバブルで金持ってたからとりあえず買ってみた感が無くもないけれど。
1986年に供用開始、93年に死んだ。
産駒は中央の重賞まで勝ててないけど、金沢競馬の強豪エビスライトオーがいる。
中央だと、NHK杯やラジオたんぱ賞などを2着したカミノスオード、スプリングSを2着したフライトスズカなど。
これはPer Fliteという名前。意外にもFlightじゃない。
fliteって小言とか論争なんだけど、「公平に小言を言う」みたいな意味なのか。あるいはフレーズとして別の意味があるのか。どういう名前なんだろう……?
しかしどっちにしてもパーフ・ライトだとは思わんやろ、と思ったら、父パーフライトでパーフを含む馬4頭。なんでそう切って、しかもパーフを取るの……?
フライトを含むのが16頭、ライトを含むのが27頭。11頭はフライトじゃなくてライトを取ってる。
これも、フライトを取った馬はフライトスズカが活躍、ライトを取った馬は1勝馬が4頭いるだけ。やはりフライトの方がずっと強い。
ただ、フライトスズカは空を飛ぶんじゃなくて小言を言うスズカ。親から取ったならそうなる。親が不思議な名前してると因果が子に報いるな……。
フォティテンの場合
フォティテン(JBISにはフオテイテンで登録されてるっぽいけど、この時期なら拗音使えるのになんでだろ)は、フランスのシェーヌ賞勝ち馬で、グランクリテリウムやロベールパパン賞3着とマイル近辺である程度の実績を残した競走馬。
1984年生まれ、88年からもう日本で種牡馬を始め、2004年に引退。
産駒としては桜花賞馬ワンダーパヒュームがいる。勝った桜花賞も見てたし、故障で安楽死した京都牝馬特別も見てたな……。全弟のワンダーファングもスプリングステークスを勝っていて、母馬ラブリースターがフォティテンと相性が良かったらしい。ただワンダーファングも障害で事故、安楽死。
サクラバクシンオーやビコーペガサスあたりと同じ時期にスプリント路線でそこそこ活躍したゴールドマウンテンもいる。
Fotitiengというスペルなんだけど、どういう意味なのかはよくわからなかった。フランス語じゃ調べきらんな。
さすがにフォティテンを途中で切ったりせんやろ、と思ったら、フォティを含むフォティテン産駒が2頭。しかもフオテイだったりフォテイだったり。布袋の一種と思われたんだろうか。
テンを含むフォティテン産駒を検索してみても、まあフォティ・テンだと思ってるっぽいのはちらほら見える。
飽きてきたけど
同じようなことを調べるのも飽きてきたけれど、いかにも変なところで切られてそうな名前の種牡馬はまだまだある。
アジュディケーティング(Adjudicating)とか。途中で切るところはないはずだけど、アジュディミツオーという北関東で東京ダービーやかしわ記念などを勝った活躍馬が要る。読みにくそうな名前やなあ。
ブラックタイアフェアー(Black Tie Affair)の産駒に、「フェア」「フェアー」を含む馬がけっこういる。Black Tire Fairだったら、タイヤの安売りしてそう。
カコイーシーズ(Cacoethes)なんてのも、なんせラテン語由来というのもあって耳慣れない響き。シーズだけ取られたりしがちで、シーズプリンセスとかエスプリシーズ、ヴァイタルシーズなど活躍馬がいる。
でもカコイサンデーはなぜそうなった。高知で120戦17勝。ちなみにサンデーサイレンスの血はぜんぜん入ってない。