堺風の頭部

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おもしろ本「うまい雑草、ヤバイ野草」(と「三ツ星カラーズ」)

 2018年冬の覇権アニメは、「ポプテピピック」か「ゆるキャン△」か、あるいは「宇宙よりも遠い場所」か、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」かと、なかなか激戦らしい。
 私が今季の白眉を選ぶなら、この中ならゆるキャン、他に挙げるなら「三ツ星カラーズ」か、どちらかというところ。

 さて、その三ツ星カラーズに、上野公園で雑草を食う話があった。アニメ6話、原作でいえば29話。
 シロツメクサ、つまりクローバーが食えると採取していたが、果たしてこの子らカタバミとちゃんと区別するだろうか、と心配をしながら見守っていた。やっぱり絵を見る限りカタバミを掴んでいたように見える。

 野草食・雑草食についての面白い本が、今回のネタたる「うまい雑草、ヤバイ野草」(サイエンス・アイ新書、森昭彦著)である。

 

 この本がどういうものか、大まかにいうと、「なんか雑草食ってる変な人が、見分け方、調理法、味、旬、こだわり、昔話などをいやに面白い口調で語りまくる」という感じ。
 小説なんかだと、後書きに自分語りがあったりするんだけど、この本にはない。だから著者が何者か、カバー裏の略歴程度しかわからない。(同じ文言がサイエンス・アイ新書のサイトにあった
 しかし、なんか読んでると人が見えてくる。

 

 一応、本としては野草食がテーマなんだけれど、どうも森氏はガーデニングが趣味、あるいはプロらしい。
 なにせ、庭やら畑にガンガン侵入するような生命力の強い雑草相手となると、食べる話より前に敵意剥き出し。

 日本全国津々浦々、自然を愛する園芸家のみなさんがコヤツを引っこ抜く総量は、もはや東京ドーム何杯分という単位であろう。ドクダミは、それでも消えない、あきらめない。
(p76)

 これがドクダミのページの冒頭だ。他の植物のページでも、強い雑草に関してはまず敵意から入ったりすることも多々。

 この後、もう少しドクダミdisを続けた後、突然料理屋でドクダミ入りの食い物を出された話がきて、意外にもうまかったと言い出し、そして癖を消す調理法に流れ、再び園芸家ドクダミdisを挟んで、薬効の話になり、収穫時期について説明しつつドクダミdisを入れ、他の悪質雑草もdisり、名前が似ているツルドクダミの話が出て、こいつも大繁殖しそうだから育ててやんねーよ、といった話の流れになる。
 この濃密に流転するトークが、軽妙に2ページに押し込まれている。

 食った話を文献で読んだけど自分では食べてない、という植物が紹介されていたりもする。文献の書きぶりだけで不味そうと判断した、と書いていたりもするし、「文献には食えるとあるけど、あんなひどい悪臭を放つ植物なんか食えてたまるか」とだけ丸1ページ書き連ねていたりもする。そりゃ食いたくなかろう。
 食糧難になったときに食えると覚えておけば役立つ……といっても、マヨネーズや胡麻和えにでもしないと食えたもんじゃない雑草は食糧難だとどうせ食えない、とか身も蓋もない現実も語る。

 一方で、かつては食べていたけど今となっては絶滅危惧種に指定されていて、肉体的にじゃなく社会的に食べられないものも紹介されていたりもする。
 根っこが美味いのに、花泥棒と思われそうでスコップ持って掘りに行くのは躊躇われて……とか、毎年収穫シーズンをうっかり忘れてまだ、とか、食えてないエピソードが語られるケースもある。

 雑草食というテーマも面白くはあるけれど、そんなことに手を出してしまう人の面白さが溢れかえるようだ。単なる図鑑的なものとは、そこで一線を画している。

 

 語り口は愉快だけれど、本の構成は真面目なところもある。
 まずは、食べられる野草とよく似た毒草をあわせて紹介する章から始まる。
 誤食事例や見分けの難しさ、間違えたときの症状なども詳しく紹介した上で、まずは君子危うきに近寄らずで臨めと忠告してくる。
 実際、慣れた人でも見分けに失敗するような紛らわしい毒草もあって、半可通が下手に手を出すと危ない世界でもある。
 まあ、そう言いながら、羹に懲りて膾を吹く必要はないとか、冒険は刺激的な方が面白いとか煽ってもいるんだけど。

 

 ちなみに三ツ星カラーズで食ってたツユクサシロツメクサタンポポのうち、この本で紹介されているのはタンポポだけ。

 三ツ星カラーズのあの話は、季節は秋だろう。秋に咲いたり綿毛つけたりしているのは、外来のセイヨウタンポポ。在来のタンポポは春にしか咲かない。
 本では、元々食用として導入されたセイヨウタンポポの方が在来のタンポポより美味い、という話をしていた。さらに最近のタンポポコーヒーは美味いらしく、試供品を3杯飲んで笑われたとかまた笑い話を差し込んでくる。

 それから、カラーズがシロツメクサだといいながら取っていたのはカタバミだった。
 どちらも三つ葉なのだけど、シロツメクサなら葉の中ほどに白い飾りのような線が入る。緑一色ならカタバミだろう。

 カタバミは、本でも紹介されていて、刻んでサラダにできるくらい食べやすいものらしい。
 ただ、アカカタバミだと食えない。色で見分ける、のだけどたまにあんまり赤くないアカカタバミもいると。
 ムラサキカタバミなら、カタバミよりもっと美味しい。
 しかし、同じように紫色の花をつけるイモカタバミは食えない。花びらの付け根が濃い紫ならイモ、緑ならムラサキ。

 雑草食うのも奥が深い。

 

カラーズぱわーにおまかせろ!

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