堺風の頭部

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マクタッキー(ケンドナルド)の記憶

 中国には、マクドナルド(麦当劳)とケンタッキーフライドチキン(肯德基)を勝手に融合させた「マクタッキー(麦肯基)」というハンバーガーチェーンがあるという。
 麦肯基だと、そのまま読むとマクケンキー(中国語読みでもマイケンチーくらい)だが、日本人的にわかりにくいのでマクタッキーと呼ばれるようだ。

@nifty:デイリーポータルZ:話題のマクタッキーに行ってきた

 デイリーポータルZで取り上げられた時は、そこそこ話題になって面白がられていたように思う。

 すっかりネットもグローバルになったもんで、今や中国のサイトも簡単に検索して発見できる。まだあるようだ。

www.maikenji.com

 

 この「マクタッキー」を扱ったデイリーポータルZの記事は2007年だ。
 もう10年以上前の記事なのだが、私はこれが話題になった時に、「これ前にもネタになってなかったっけ?」と思ったのだった。
 確かに私は、2007年より前からマクタッキーを知っていた。

 

 初めて私がマクタッキーを知ったのがいつだったか、今となっては知る由もない。
 確かに、日本語で「マクドナルドとケンタッキーをパクったマクタッキーというハンバーガーショップがあった」という記事を読んだはずだった。

 初めて知ったときには、まず衝撃を受け、そして笑ってしまい、そしてひとつ疑問を感じた。
 「この漢字三文字で、マクタッキーと読めるだろうか?」と。
 その記事で紹介されていた店の名前は、なんだかマクタッキーではない気がしたのだ。

 そして、当時のまだまだなんでも簡単にはできないネットを探し回り、どうにか、漢字を入力すると中国語(台北語とかだったかもしれない)で発音してくれるサイトを発見。
 問題の店名を読み上げさせてみた。そして私が聞いたのは「けんだーのー」と聞こえる声だった。

 つまり、マクタッキーだと紹介されていたその店は、ケンドナルドだったのだ。

 

 マクタッキーとケンドナルドを取り違えるという衝撃的なミスを、ネットの力を駆使して発見したという経験、まさか偽の記憶ではないだろうと思う。
 私は確かに、2007年より前にマクタッキー、いやケンドナルドを知っていたのだ。

 

 では、「ケンドナルド」は実在するのだろうか。それとも幻だったのか。
 ケンドナルドは単に中国語でのマクドナルドとケンタッキーを合成したものだろうから、当然「肯当劳」だろう。
 中国語だと「ケンダンラオ」といった読みになるようだが、私があの時聞いた「けんだーのー」にも近い。

 あれから10年以上、すっかり検索も進化したもので、実にあっさり見つかった。

肯当劳 - Google 検索

 

 Google検索では時期を指定して検索できるので、デイリーポータルZの記事が出た2007年より前に、私が見たはずの「肯当劳(ケンドナルド)」を取り扱っている記事がないか探してみた。

【谷草转氨酶偏高的原因】两岁的孩子体检肝功能谷草转氨酶偏高怎么办?饮食如何注意?在孩子上 - 爱问知识人

 だが、さほど古い記事は見つけられず、2006年9月、中国版教えてgooみたいな感じのサイトで使われているのが、確認できた最初の、意味のある「肯当劳」だった。
 (その少し前に、日本の「したらば」で、「麦肯基はあるけど肯当劳はない」と話しているのがヒットする)

 上の記事は、「子供の肝機能に問題があるようだが、食べ物にはどんな注意を払えばいいか?」という質問。
 その返答として投稿された中に、「那些麦德基肯当劳之类的垃圾食品坚决不吃。」という一文があった。
 「マクタッキーとかケンドナルドのようなジャンクフードは絶対に食べない」といった意味だろう。

 本物のマクドナルドやケンタッキーフライドチキンならいいけど、パチモンはジャンクフードだから食べない、という意味で言ったのだろうか。
 あるいは、回答者が少々極端なタイプで、マクドナルドやケンタッキーをジャンクだと貶めるために、名前を混ぜて入れ替えたのだろうか。嫌いなものを攻撃する時に、対象の名前をいじるのは日本でもよく見られるし。

 

 ともあれ、これが最古の記事であれば、私が初めて見た「ケンドナルドをマクタッキーだと紹介している」という記事は、発見できなかったことになる。
 文中に文字で中国語を書けず(2000年代前半だと個人サイトの文字コードはSHIFT-JISが多く、中国語は書けない)、「肯当劳」という文字列が含まれないページだった可能性もあるが、まあおそらく、もう電子の海に溶けて消え去ったのだと思う。

 

 なお、「マクタッキー」とカタカナで、引用符を付けて時期を指定して検索してみたが、やはり2006年からしかヒットしない。
 単に「マクタッキー」と読める「麦德基」も2006年からで、先程の質問回答サイトの記事が初出期のものとして上がってきた。あの回答者、「麦德基(マクタッキー)」「肯当劳(ケンドナルド)」を両方発明してしまった人なんだな。

 有名な「麦肯基(マクケンキーa.k.a.マクタッキー)」についてはかなり古くから見られ、中文サイトはもちろん、日本語での紹介も散見される。例えばこちらのサイトでは2001年撮影の写真とともに公開されている。

 「麦肯基」は古くからある、しかし字面通りに「マクケンキー」と読んでも、日本人にはマクドナルドとケンタッキーを足して二で割ったように見えない。
 そこでネーミングの意味を重視して、「マクタッキー」と意訳というか意読することが、デイリーポータルZの2007年の記事か、その少し前くらいに発明されたようだ。

 

 かつて私が始めてみたケンドナルドは、一体なんだったのだろうか。

 今なお堂々と公式サイトがあるチェーン店の麦肯基に比べると、肯当劳(ケンドナルド)はマイナーらしい。
 地元の小さな会社や個人が、ハンバーガー屋をやろう、目立つように舶来のマクドナルドとケンタッキーをパクろう、じゃあ店の名前はケンドナルドだ、と思いつきでやらかした程度のものかもしれない。
 それを、中国(あるいは台湾や香港かも)を旅した日本人が発見。「読めないけどなんかマクドナルドとケンタッキーを混ぜたようなロゴとか使ってる、こりゃマクタッキーに違いない」と、インターネットのホームページに書いた。
 そしてそれを私が見かけ、ひとしきり笑って、「でもケンドナルドやな」と発見した。
 そういう流れではないだろうか。

 私があの時見たサイトも見つからない。
 私が見たのが、今検索で見つかる肯当劳(ケンドナルド)なのか、別の店なのかもわからない。
 なんの証拠も残っていない。
 だが、2007年の「麦肯基(マクケンキーa.k.a.マクタッキー)」ブームよりも前、日本の若者だった私と、遠く中国の小さなやらかしハンバーガーショップのケンドナルドが、どこかの日本人ホームページ主によって、かすかに繋がった。そんな縁があったはずなのだ。

 私がそう思うならそうなんだろう。私の中ではな。