別に今に始まったことじゃないし外でも散々いわれているけれど、スマホ業界って、どうも言葉の使い方が変なのだ。
ストレージ容量をROMと呼ぶ慣習は、言葉として完全に間違ってるだろう、とずいぶん言われているはずだけど、一向に改まらない。他にいろいろ表現のしようはあるだろうに。
ハンドヘルドコンピューターであるはずのスマホで、コンピューターの用語をここまで変な使い方をするくらいだから、カメラ用語となるとこれもまた怪しい。
そこで、いくつかの気になる表記について、日本で知名度が高いと思われるスマホのメーカー各社のホームページを当たって、どのような表記をしているかリストアップしてみた。
目次
調査対象メーカー・機種
スマートフォンメーカーまとめ一覧(2017/06/09更新) | KAKUYO | なんかいろいろ書くよ!
こちらの記事に、幅広くスマホメーカーがリストアップされていたので参考にさせてもらい、日本でそれなりに知名度がありそうなメーカーを私の独断で選んだ。
各社の日本向け最新ハイエンドモデルの製品情報ページで確認することを基本としたが、他にデュアルカメラモデルがある場合はそちらを優先した。
今回は用語の乱れをチェックするのが目的で、デュアルカメラに関する表記は、いかにも乱れていそうな印象があるので。
- 中国 HUAWEI P10 Plus
- 中国 ZTE AXON 7
- 台湾 Acer Liquid Z530
- 台湾 ASUS Zenfone Zoom S
- 台湾 HTC U11
- 韓国 SAMSUNG Galaxy S8+
- 韓国 LG V20 PRO
- 日本 FREETEL SAMURAI KIWAMI 2
- 日本 SHARP AQUOS R SH-03J
- 日本 VAIO Phone A
- 日本 SONY XPERIA XZ Premium SO-04J
- 日本 京セラ TORQUE G03
- 日本 富士通 arrows Be F-05J
- 米国 Google nexus 6p
- 米国 Apple iPhone 7 Plus
これらに対し、私が独断で選んだ4点、「ストレージ容量」「カメラレンズの開放F値」「カメラレンズの画角」「デュアルカメラ」についてそれぞれ、表記を比較した。
ウェブサイトからの表記のピックアップは、まずスペックシートを見て、そこになければ製品解説を順次見ていって、最初に目に止まったものを選ぶことにした。
用語チェック
ストレージ容量
- ROMと表記している
Huawei、HTC、LG、FREETEL、SHARP、VAIO、SONY、京セラ、富士通 - (内蔵・内部)ストレージと表記している
ZTE、Acer、ASUS、Google - 容量と表記している
Apple - 64GBと表記している
SAMSUNG
いつからのことか知らないが、最近の日本ブランドの多くはもうみんな「ROM」と書いてしまっているようだ。
スマートフォンがコンピューターである以上はROMなんて間違いでしかない、新語だというなら既存語を無視しすぎと言わざるをえないのだが、「大半がぞろぞろ同じ間違いをすることもあるから多数決を信用するな」と子供に教育するいい例かもしれない。なんつって。
韓国LGや中国HuaweiもROM表記。
Huaweiは中国向けサイトでもROM表記があったし、またXiaomiもROMと書いている。中国でもROMで通じてしまうようだ。
台湾勢は「ストレージ」が多いようで、そこはコンピューターメーカーの強いお国柄だろうか。
Googleもストレージ。
アップルは「容量」。容量があるのはストレージに限らんと思うのだが。
SAMSUNGが何とも言わずに「64GB」とだけ書いているのも、雑なようにも思えるし、64GBという容量を持つスマホ関連のものは当面ストレージ以外にはないだろうから合理的にも思える。
カメラレンズの開放F値
スマホにはカメラがついているものの、あまりスペック表記がしっかりしていない。
カメラ好きからすれば、書いていて当たり前、書いていないとどういうものか判断できない、というような情報さえ、すっ飛ばされていることが多い。
しかし最近は、レンズの最大口径比、いわゆる開放F値は記載されることが増えた。
開放F値は、ざっくりいえば、レンズが通して画像センサーに届けられる光の量を表す。通す光の量が多いと、より暗いところでも撮影しやすくなるので、「カメラが暗いところに強い」とアピールする要素のひとつになる。
それで、最近記載されることが増えたものと思う。
- F1.8、という大文字Fでの表記
Huawei、ZTE、SAMSUNG、SONY - F値1.8、という表記
ASUS、LG、FREETEL、SHARP - f/1.8、という小文字fの分数表記
HTC、Google、Apple - 書いていない
Acer、VAIO、京セラ
3種類の表記が見られたが、これはいずれも間違った表記ではない。
開放F値は、「レンズの焦点距離 ÷ レンズの有効口径」で求めるものなので、例えば焦点距離50mmのレンズで口径が25mmならF2.0になる。
f/2.0という表記になるのは、焦点距離を小文字fで表すことが多いから。焦点距離fを2.0で割った有効口径を持つレンズだ、という意味になる。
他に、「1:1.8」といった比での表示もある。これなら、有効口径:焦点距離の比率表記。もちろんこれも正しい。
この3種の表記は、カメラメーカーも使っている。
書いていないのは3社だけだった。
しかし、ハイエンドモデル中心に調査したため、カメラも奢っている機種ばかりで、奢っているから明るいF値をアピールしていた、という傾向もある。
あまりカメラにこだわっていない下位モデルだと、記載しないケースがもっと増える。
開放F値をなんと呼んでいるか
ちょっと意地悪な項目だが、開放F値のことを、スペックシートなどでどういう項目名で表記しているかチェックした。
- 「開口部」としている
Huawei、Apple、FREETEL - 「aparture」としている
HTC - 「口径」としている
ASUS - 「絞り値」としている
Google - 「F値2.0」とか「F2.0」といった表記があるだけ
ZTE、SAMSUNG、LG、SHARP、SONY、富士通
陰険にケチをつけると、F値 = 焦点距離 ÷ 有効口径、という式で求められるのだから、F値が直接「開口部」とか「口径」を現しているわけではない。口径なら単位はmmであるはず。
「絞り値」というのも微妙なところ。nexus 6のカメラに絞りは入ってないはずだが、では存在しないものの値とは。
「F2.0」だけで通してしまうのは、不必要な間違いを起こさない賢明な表記ではある。
「aparture」という表記は正しいんだけど、ちゃんと訳そうよ、という感じはある。
ちなみにWikipediaでは「Aperture - Wikipedia」の日本語版が「開口 (光学) - Wikipedia」となっている。
参考に、カメラメーカーはどうしているかと、交換レンズの製品情報ページから調べてみた。
オリンパスと富フイルムは「最大口径比」としている。至って正確な用語。スマホのカメラなら、口径を変動させる絞りは入ってないわけだから、「口径比」でも十分なんだけど、採用例なし。
ソニーは「開放絞り」、ペンタックスは「開放絞り値(F値)」。絞りがついた交換レンズだからこの表記でいいように思う。ただ、ペンタックスは絞りのない交換レンズ(Qシリーズ用トイレンズ)もこの表記だった。
ニコンは「開放F値」。キヤノンは、「F2.0」といった表記だけで通していた。
ライカ ズミルックスTL f1.4/35 mm ASPH. // ライカTL レンズ // ライカTL // フォトグラフィー - Leica Camera AG
ライカを見てみたところ、F値の表記にF1.4、f1.4、1:1.4と3種類混在している。
小文字fで分数でない表記、間違いかと思ったのだけど(FREETEL SAMURAI KIWAMIはf2.2と表記していた)、ライカがやってるならアリなのかなあ。
レンズの画角
画角とは、早くいえばカメラが写し込む範囲のこと。
望遠レンズなら狭い範囲を狙って写すし、広角レンズなら広い範囲が写る。
不思議なことに、スマホのカメラは、多彩な撮影機能や高感度性能、「一眼レフ並の」といったアピールは多数並べ立てているのに、レンズの画角を書いてないことが多い。
カメラが好きだと、画角こそ一番重要な要素だと思うはず。35mm版換算で24mmの広角レンズがついてるか、40mmくらいの標準レンズがついてるか、それでもう、撮れるものも撮り方もまるで変わってしまう。
別にカメラ好きでなくたって、「どれくらいの範囲が写し取れるカメラか」というのは、大事なことだと思うんだけど。
- 画角を度で表示
LG、京セラ - 画角らしい数字を単位なしに表示
SAMSUNG - 「35mmフィルム換算値」と注釈して焦点距離をmmで表示
SHARP - 注釈なくmmで表示
ASUS、SONY、富士通 - 記載なし
Huawei、ZTE、Acer、HTC、FREETEL、VAIO、Google、Apple
最もしっかりした表示をしているのがSHARP。
この表記が、デファクトスタンダードとしてデジカメ業界などでも長く使われてきた。
ASUS、SONY、富士通は、おそらく35mm版換算の焦点距離と思われる数字を、注釈なく表示している。
まあ意味は汲み取れるんだけど、書くべきことを書いていない。
画角を度で表示するのは、GoPro以来流行のアクションカメラで多い。これはこれで正しい表記だ。
なぜか単位なしで画角を表示しているSAMSUNG。単位のある数値には単位つけるべきだろう。
書いてないのはもちろんダメ。
まあAcerなんかは、どう見てもカメラにこだわるような機種じゃないから仕方ないところもあるが、かなり力を込めたカメラ積んでる機種で、画角すら書いてないのはよくない。
デュアルカメラについて
最近のトレンドで、カメラをふたつ積んだスマホが多数現れている。これを見ていこう。
まずiPhone 7 Plusだけれど、広角レンズのついたカメラと、望遠レンズがついたカメラが搭載されている。
それでどっちも焦点距離を書いてない。ダメ。
でもって、広角と望遠を選べることをもって「2倍光学ズーム」という。焦点距離を連続的に変化させられないのはズームとはいわん。これを光学ズームだなんていったら誇大広告の類じゃないか。
この件については、私以外からも突っ込まれているのを何度か見かけている。
「ステップズーム」なんて語を持ち出すカメラマニアもあるそうだけれど、それもどうかなあ。ステップズームはあくまで、ズームレンズを段階的に区切るものであって、元々ズームでないものはステップズームにもならない。
フィルムカメラの頃に「二焦点カメラ」というものがあった。
ミノルタが1980年に「AF-TELE QD」というカメラをリリースしているんだけど、これは38mmと60mmでレンズの焦点距離を切り替えられる。
まあiPhoneも、「二焦点カメラ」がいいんじゃなかろうか。なんとミノルタはAppleより36年ほど先進的だった。
で、ASUSのZenfone Zoom Sも同様、二焦点カメラを2.3倍光学ズームという。
ASUSはこれの前モデル、SがつかないZenfone Zoomでは、ちゃんと連続的に焦点距離を変えられる3倍ズームレンズを搭載していた。
それが、二焦点カメラにしたのを引き続きZoomと言い張るんだから、がっかり。
LGのV20 PROは、「暗所に強い高精細カメラと、超広角カメラのデュアルカメラ搭載」というウリ文句。
ズームなんて書いていないし、デュアルカメラという表記も、カメラがまるごとふたつあるんだからこれが間違いない。
製品紹介ページにおいても、カメラに関して誇大なことをいわずにちゃんと機能を示している。
今回の調査対象の中では、カメラ周りの解説はLGはかなり良かった。
京セラのものも、通常のカメラと、動画用のアクションカメラを搭載しているような形。機能的に別のものを追加したような扱いで、特にデュアルだというようなアピールはない。
嘘も誇大表記もなく、順当。
ただメインカメラについての情報があんまり載ってなかった。メインカメラは画素数しかわからな。
Huawei P10 plusは、片方はカラーセンサー、もう一方はモノクロセンサーという形のデュアル。
しかし焦点距離・画角すら書いていない。
また、レンズからセンサーまでのカメラモジュールがまるごとふたつ搭載されているのに、なぜか「ダブルレンズ」という。
製品紹介としては、モノクロとカラーの画像を組み合わせることでどうなるのか、説明が上手くできてない感じ。
誇大なことは書いてないけど、情報不足で頼りない。
まとめ
- ストレージ容量を「ROM」は誤用なので厳しく-2点
- ストレージ容量を「容量」は、厳密さに欠けるので-1点
- F値未記載は-1点
- 開放F値に対して「開口部」「口径」は厳密には間違いだが、減点なし
- 注釈なしの焦点距離mm表示は、書くべきことが抜けているので-1点
- 単位なしの画角表示は、厳密さに欠けるので-1点
- 画角未記載は、あるべき情報がないので厳しく-2点
- ズームでないものをズームと称するのは、誇大表示にあたるので厳しく-2点
以上の容赦なき減点法で点数をつけてみたところ、以下の順位になった。
となった。
まあApple最下位が気になるとは思うのだが、やっぱりあれを「ズーム」とするのは誇大表示と言わざるを得ず、そのくせ焦点距離書いてないのは必要な情報がないと言わざるを得ず。
ストレージに「容量」という表記があるのに減点したけど、それを免除したところで大差ないし。
ASUSも「ズーム」とさえ言わなかったらトップに並ぶ。他には焦点距離に「35mmフィルム換算で」というあるべき注釈がないだけだった。
つまり、デュアルカメラ機ではないZenfone 3あたりでチェックすれば1位に上がりそう。でも「ズーム」は商品名にまで使っちゃってる嘘なので厳しくする。
一位のSAMSUNGは、減点要素が「画角に単位がついてない」という点だけだった。
容量を「64GB」は減点するか迷ったけれど、現状スマホで64GBという量はストレージ以外に使わないので。
そんなにきっちり言葉使ってる感じしないのだけど、誇大なことはいわないし、書くべきことは書いてはいるのでこうなった。
カメラについて減点を受けてないのはSHARP。「ROM」と書いちゃったことで減点されてこの位置だが、カメラに関しては実にきっちりしていた。
LGも、今回の基準だとデュアルカメラ機に対して厳しくなるのに、それでも減点なく通り抜けてきた。これも「ROM」でだけ減点。
サイトを見ていて印象良かったのは、SHARPとLGだったな。
VAIOはとにかく何も書いてないから、全部減点されてこの位置。
VAIO Phone Aはスマホとしてはせいぜいミドルクラスで、カメラに特筆すべきことがなくてこうなったんだと思う。他社のミドル・ローエンド機もこうなる機種がありそう。
京セラも、デュアルカメラの一方であるアクションカメラについて画角表記があったから減点が減っているが、メインカメラについては記載が何もない。これを減点すればずっと下がる。
まあ、別にこの点数でスマホの価値がきまるわけでもない。
評価した要素がほとんどカメラだから、極めて偏ってもいる。
ただ、ここで点数が低いということは、ウェブサイト上で情報収集するにあたって問題があるとは言える。私みたいにカメラを重視したがるユーザーには購買意欲は下がる。それは言えると思う。