堺風の頭部

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最後のスイバルCOOLPIX S10

 さすがに最近レトロデジカメ漁りのペースもかなり下がっているけれども、えっ、と思うようなもんを見かけるとまだ手は伸びる。

www.nikon-image.com

 確かこれが、日本のメーカーによって発売された最後のスイバル型デジカメのはずだ。

 

スイバルとは

 ボディ右側に操作ボタンと液晶モニター、ボディ左側にレンズとCCDを配置して、それが回転軸でつながっていて、レンズの向きを自由に変えられる。

 前を撮影する時は、上のついーとのようにレンズを90度回して前に向ける。自撮りだったら90度回すこともできる。上から花マクロ狙うときに下を向けたり、ローアングル撮影なら上に向けられる。
 バリアングル液晶とかチルト液晶は今でも当たり前にあるんだけど、あれは液晶しか向きが変わらない。シャッターボタンとか操作系の角度も一緒に変わるのがスイバルで、操作性が損なわれない。

 失われた文化とはいえ、あのスタイルなればこそ、という美点が色々あったものだったのだ。

 

arch.casio.jp

 まあ、操作部とレンズが回転するといつと、自拍神器ことCASIO TRYXシリーズが最近もあったのだが、これは昔いうところのスイバルとは結構違うので。

 昔のスイバルは、センサーをカメラ底部に置いて、上端までの余裕ある長いスペースにレンズを配置していた。
 普通に前向きに付けたら、カメラの厚み分しかスペースはない。いくら昔のデジカメが分厚かったといっても、シンプルな単焦点レンズにするか、沈胴式にするしかない。スイバル機の固定で数多くレンズを置ける長いスペースは、おそらく設計上のメリットだったんだと思う。

 今でこそ絶滅したけど、かつては多数のメーカーが手がけていた。
 ニコンは高級機に率先して採用するほどだったし、カシオもよくやっていた。
 ソニーもハイエンドのDSC-F717などがスイバルだし、DSC-U50なんて多分世界最小のスイバル機なんて作ってみせた。
 PENTAXにもOptio Xがあったし、京セラのFinecam SLシリーズはスイバルをカード型に納めた非常に美しいカメラだった。

 

 今回のCOOLPIX S10は、ニコンのスイバル型デジカメとして10機種目、最初のCOOLPIX 900から8年目に出た製品。
 2006年のこれを最後に、ニコンからスイバルは出ていない。

 

COOLPIX S10について

 レンズは、ライカ判換算で38-380mmF3.5通し。
 2006年当時、もちろん高倍率ズームレンズのカメラは存在していた。けれど、PowerShot S3ISのようなネオ一眼スタイルの大きなカメラばかり。
 LUMIX TZ1のように沈胴式でそれなりに小さい機種も生まれ始めていたけれど、やはり形状がゴツゴツしている。
 収納時にスマートな板状に収まる10倍ズーム機、となると他には案外少ない。

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 それからこのカメラを平たくしてこのように持ってみると、なんともどこかで見たようなスタイルになる。
 どうもニコンのコンパクトデジカメは三洋電機製っぽい気配がするんだけど(私は三洋電機贔屓だからわかる。私は詳しいんだ)、やっぱこれXactiの兄弟機では……
 1/2.5型CCDに38-380mmF3.5のレンズも、XactiでいうとDMX-HD1系列に採用されていて、同じものじゃないかなあ。

 スタイルはいいとして、ちょっと気になる操作性。
 露出補正もISO感度変更もメニューの中。そのくせ、十字キー右と押し込みには機能割当なし。測光モード変更もないから、おそらく評価測光で固定。
 ニコンともあろうものが、こうも露出を触らせないような仕様にしちゃうなんて。

 まあ、10倍ズームで手ぶれ補正付き、ってことで、運動会で子供を撮りたいママ向けのカメラとして企画されちゃったのかもしれないなあ。それで、失敗しないように操作できない仕様にしたと。
 その層がスイバル買うかどうか、運動会用としてバリアングル液晶よりスイバルが優れていることを説明できる店員さんがどれほどいるか、ちょっとわからないが。

 

実写

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 阪堺電車の車内から。望遠380mmの圧縮効果。

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 こういうハイアングルを、腰だめのポジションで楽に撮影できちゃう。

 他で撮った感じ、太陽が雲越しじゃなくて直接出てたら、ある程度ゴーストは出てたかもしれない。そんなに弱いわけでもないけど。
 1/2.5型600万画素、ダイナミックレンジが広いとはいえないはずのセンサーだけど、案外まあまあ良いか。

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 マクロについては、全域でかなりよく寄れる。

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 焦点距離が13.2mm(換算79mm)のところで最大撮影倍率が出る。ほぼ10円玉が画面一杯くらいかな。

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 テレ端だとかなり最短は長くなるけど、焦点距離が長い分、それなりに倍率も大きい。距離に縛られる感じは全くないレンズ。

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 テレ端だと、あまり遠景を撮るとちょっと甘くなるようだ。これは100m程度で、これなら十分シャープ。

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 しかし900m離れた天王寺駅前から通天閣は、いささか眠い。レンズのせいか、空気のせいか。

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 大阪城公園です。

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 天王寺公園にて。
 ホッキョクグマは大体いつも人だかりができているけど、スイバル機だと楽々頭越し撮影。カメラを上に差し上げた状態で、画面が見えるのはもちろん操作もしやすい。
 この点で、COOLPIX S10を運動会カメラとして売り出すことは正しいと思うんだけど、果たしてリリース当時にそれがウリとして説明されていたのだろうか。

 望遠380mm、センサーが古いので感度があまり上がらないが、その分F3.5の明るさならかなりシャッター速度も稼げる。時代の割にはわりと良いか。

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 露出はほぼオート任せにせざるをえないが、曇り空でもあり、アンダーめに無難な露出を弾いてくる感じ、目も当てられないほどのカットはないし、ちょっと補正する程度で救えそう。

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 アシカのいるプールが、大量のアオサギ(ただの野鳥)に占拠されていて、どっちが展示されているかさっぱりわからん有様だった。

 寄るとかなりキレのいい描写をするレンズに見える。ボケも実焦点距離63.3mmでF3.5だから、かなり出せる。ボケ味もまあまあでは。

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 しかし何分オートフォーカス専用なので、動物園でのライバルは柵とネット。普通はまあ、ネットにピントが来ちゃう。
 できるだけネットにレンズを近づければいいんだけど、それができない時にでも、なぜか時々ネットを無視して奥の動物にピントを合わせてしまうこともある。
 これはカメラがミスってる結果生じてるくさくて、動物園ではたまたま良い結果になったけど、逆に花マクロでなぜか頑なに手前の花に合わせず奥の方に抜けちゃうこともある。いまいち癖が読めない。

 AF速度も、まあ仕方ないけど、テレ端だとかなり遅い。
 また、マルチAFじゃなくて、中央か手動選択の1点のみ。2006年にしては随分弱い仕様だ。

 シャッターチャンスに強いカメラとは言い難いものがあるな。

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 なぜかステージ裏に溜まるフンボルトペンギン

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 5メートルは離れたヌートリアの顔アップが撮れる望遠の長さは心強いのだけど、夕方になってくると、ちょっとシャッター速度が長くなってブレやすい。
 さすがにどんどん感度上げていける一眼レフのようにはいかないのはわかるけど、CCDの基本感度がISO50、カメラが増感するのもISO200までっぽい。

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 ハイエナとかライオンくらいの大きな動物が動き回ってると、なかなかブレずに撮るのは難しかった。

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 ライオンは動かなくて楽だ。

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 広角38mmとやや長いとはいえ、望遠域なら長くて、どの焦点距離でも寄れるから扱いやすい。これ230mmくらい。

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 やっと流し撮りが成功したカットだけど、何度もいろんな動物で試した流し撮りはほぼ全滅だった。手ぶれ補正はボタンひとつでOn/Offできるから、切って試すべきだったかな。

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使用感インプレ

 ボディは別に高級機の品質じゃないけど、金属ボディだしまずまず。ボタンのタッチも良くはないけど酷くはなし。
 ただ、十字キーについてはいまいち入りが頼りないか。

 液晶もまずまず明るく、もっと直射日光が激しいと別だけど、薄曇りだったこの日は問題なかった。
 PCで見るとちょいアンダー寄りに見えるけど、カメラのモニターじゃそう見えていなかった。ちょっとカメラ側のモニターの明るさ落とすべきかな。

 起動速度は上々で、2秒くらいで立ち上がる。レンズキャップが手動だからその手間はあるけど、これは別に開けておいてもいいのだし。
 スイバルは沈胴式レンズの繰り出しがないから起動が早い……と思いたいんだけど、ニコンのスイバルはどれも起動が同時期の平均より遅かった。その点、S10は軽快感バッチリ。

 前述の通り、露出関係をユーザーに触らせたくない仕様が、私のようなユーザーには物足りない。せめて露出補正くらいはしたいのにな。

 プログラムラインも、ちょっと気になる。
 基本感度ISO50で、テレ端だと1/100秒より長くなると感度を上げ始め、1/60秒を維持するようにISO200まで上げ、それ以上は1/15秒とかになるまで上げない、くらいのラインだった。
 レンズの明るさと手ぶれ補正に救われて、止まった相手なら薄暗くなっても写せる。
 ただ動物園だと動物が動き回るため、テレ端で被写体ブレなしに撮るのは結構苦しいものがあった。ISO感度を手動で高くしておくか(メニュー奥底)、シーンモードをスポーツにするか、こちら側で対策が必要そう。

 

 スイバルならではのところでは、やっぱりマクロのやりやすさは本当に良い。重ねて言うけど、バリアングル液晶では実現しない良さがある。頭越し撮影も同様に実にやりやすい。
 サイバーショットQXみたいなファインダー別体のものとなると、今度はそれぞれを片手持ちすることになる。左手だけでレンズ持って、右手だけでスマホフレーミングしてシャッター切る、って、安定してできるとは思えない。スイバルは両手持ちのままやれる。
 しかし「特異な角度でも操作性が保たれる」というメリットがより活きるためには、露出補正くらいはサっとできる操作性も備えていてほしかったな……

 マクロに強いレンズを備えているのは、さすがにスイバル第一人者のニコンだけあって外していなかった。ニコンスイバルは伝統的にマクロが強い。
 そこに手ぶれ補正つきの高倍率ズームがつくことで、頭越し撮影にも強くなった。レンズが明るいから運動会にも対応できる。
 何でも撮影できる柔軟性があるカメラに、スイバルならではの扱いやすさも備えていて、完成度は高いと思う。

 

 スイバルで明るい38-380mmを自在に振り回せるカメラだから、なかなか楽しい。テレ380mmでこのサイズに収まっている、というのも上等だ。
 起動も早いし、バッテリーもまずまず持つ。10年以上前の電池で、250枚撮影してもまだやっと電池減少の表示が出ただけ。
 露出はあとでPCで補正するもの、ということにして、気軽に持ち出せる望遠カメラとして愛用できそうだ。