10年くらい前だけど、太陽電池パネルのメーカーで働いてたことがあるもので、今でも太陽電池がついた製品とか、あるいはニュースとか見かけるとついチェックする。
千葉県の台風災害による長い停電でも、個人で太陽電池パネルでの充電設備を作ってた方が役立ててる話を聞いたりして、うまく使ってるなあと感心する。
一方、最近はUSB電源をとれるソーラーパネルとか、ソーラーで充電できるモバイルバッテリーが売られている。
災害があったばかりなので注目が集まってるかもしれないのだが、ちょっと、私の目から見た印象など書いておきたい。
正直言って、「災害・大規模停電時」という限られた状況ならともかく、それ以外だと私はあまり良いとは思えないな、という製品が多い。
何を懸念しているのか
私は、10年近く前、まだ太陽電池メーカーで働いていた頃に、「モバイルバッテリーに太陽電池で充電する」というのは試していた。
ポータブルソーラーセット SSL-SBWL3AS 商品概要 | エネループ/電池(三洋) | Panasonic
eneloopポータブルソーラーって製品があったのね。これ持ってた。
これを南西向きの窓の内側にぶら下げて、モバイルバッテリーを充電して使う、というのを何年かやっていた。
それでどうなったかというと、モバイルバッテリーが壊れる。
三洋電機のモバイルバッテリーを使う分には大丈夫だった。でも、そのへんで買った中国製の安物を取り付けたら、実にあっさり壊れた。
太陽電池を陽の光に当てていたら、当然加熱される。
eneloopポータブルソーラーは背面がポケットになっていて、そこにモバイルバッテリーを入れておけるのだけど、やはりソーラーパネルの熱が伝わってしまうらしかった。
また、室内で使っていたから雨には濡れていないけど、結露はあったかもしれない。窓際は温度変化が大きい。
太陽電池だと発電もふらつくので、不安定な電力が入力されてもちゃんと制御できる回路がついていないと、電池にも悪いんだろう。
このへん、電池のほうがいい加減だと危険だ。私の手元で故障した安物も、異常加熱してるのに気がついて慌てて線を抜いた。リチウムイオン電池は故障時に発火しかねないのも怖いところだ。
日に当てると熱くなる、熱くなるとバッテリーが傷む、というジレンマは、何らかの解決がほしい。
三洋電機やPanasonicのような、しっかり作られて品質が高いモバイルバッテリーを使うのが解決ではあるんだけども、もうPanasonicは手を引いてしまった。
モバイル太陽電池パネルのこと
RAVPower ソーラーチャージャー 【3ポート / 24W】 iPhone、Android 各機種対応 ソーラーパネル アウトドア/キャンプ/地震/災害時 RP-PC005
- 出版社/メーカー: RAVPower
- メディア: エレクトロニクス
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(アソシエイト付きのアマゾンへのリンクをつけているけれど、今回は特に購入を勧めたいものではないので留意されたし)
RAVPowerが、こういう製品を出している。
バッテリーは付属せず、単体の太陽電池にUSB電源出力がついたものだ。
見たところ、125cm角の太陽電池セルを8枚用いたパネルで、出力は24Wだという。
この出力24Wは、まあ信用していいかと思う。125mm角の太陽電池セルが1枚3Wの出力というのは、妥当な数字だ。
まあ、3Wは裸のセルの出力だろうから、パネルとして製品になった状態では2~3割くらいは下がるかなあとも思うけれども。
ただ、この製品はかなり大きい。広げた状態で、86 × 30(cm)もある。畳んだ状態でA4、広げるとA3を長手に2枚並べたくらい。
ポケットに入るようなサイズだと勘違いすると、えらいことになる。
これくらいのサイズがあれば、24W = 5V・4.8Aの大きな電力が取れる。
まあ「太陽にまっすぐ向けて温度を25℃に保つ」といった条件での話だから、常時最高出力は望めないんだけれど。
それでも、10Wもあればスマホなどをスムーズに充電できるだろうから、地面にただ広げるような置き方でも十分実用的だろう。
災害時の充電用としては、使えそうに思う。
ただ、やはり先述の「日に当てると熱くなり、熱くなるとバッテリーが傷む」という不安には、特になんの対応もない。
この製品も、ポケットがついていてモバイルバッテリーを入れておけるようになってはいるものの、これは熱が不安に思う。
できるだけ様子を見ながら使うとか、長めのケーブルでバッテリーを風通しのいい日陰に隔離しておくとか、対策はしておきたいように思う。
少なくとも、スマホ直結で受電しちゃうのは恐ろしい。
また、折りたたみ部分の配線も、どうしても負担がかかりやすい。
断線したり、切れた部分でスパークが飛んだりとかしそうにも思う。まあ考えてないってことはないとは思うけれど……。
24Wと大出力なこともあって、破損しての事故も有りえるかもしれない。
緊急時には有用そうだけど、使用時の注意は必要な代物に思える。
(日本の太陽電池メーカーがほとんどこういう製品を作らないのも、安全性が担保できないからじゃないかなあ)
ソーラーパネル内蔵モバイルバッテリー
単体のソーラーUSB電源は、大きいものなら実用的なパワーがある。安全性が怖いけれど、気をつけて使えば有用なシーンもあると思う。
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じゃあ、折りたたみ式ソーラーパネルと、バッテリーとが一体化してるタイプだとどうかと。
まず、加熱問題は回避しようがない。
ケーブルを伸ばして隔離するとか、高品質なバッテリーを使うといった、運用上の対策すらできない。
悪いけど、中国の無名ブランドのモバイルバッテリーが、そんなにしっかり安全性に振った作りをしているとは思えない。
折りたたみ部の配線劣化も怖い。
また、写真で見た感じだとこの製品、かなりソーラーパネル部分が薄いようにも見える。
太陽電池パネルは、ガラスに太陽電池セルを樹脂で貼り付けるような構造だから、薄く作ってるならガラスが薄いんだろう。
ガラスが薄いと、力がかかるとたわむ。ガラス自体が割れなくても、中のセルが割れて性能が下がったりもする。断線の危険も増える。
ソーラーの出力が5Wというのは、誇大表示というほどではなさそうか。5V・1Aが取れる電力。
5Wは最大出力だ。真昼の太陽にまっすぐ向けて、パネルを25℃に保った状態の出力。普通に地面に置いたりする程度だと、かなり出力は下がる。
とはいえまあ、数時間も充電できれば、ちゃんと充電されていることがインジケーターからわかると思う。
「ソーラーで充電してみたい」という興味を満たすくらいはできるかと思う。
また、災害時なら全く無意味というほどではないくらいの発電量もあるだろう。
ソーラーパネルの断線が先か、バッテリーの劣化が先かはわからないけど、あんまり何年も使い続けられる頑丈な製品とは思えないな。
「太陽電池でトクした電気代が、購入にかかった費用を上回る」といったことは望めない。
(アソシエイト付きのアマゾンへのリンクをつけているけれど、今回は特に購入を勧めたいものではないので留意されたし)
で、パネルが折りたたみ式じゃないやつだとどうかというと。
これはバッテリー部分の寸法は、上のやつと同じくらい。なので、ソーラーパネルの面積も1/4くらい。
よって出力は、大きめに見ても1.5W。USB電源としては、5V・300mA。
太陽が出ている間、ずっと手に持って太陽にまっすぐ向け続けていれば、ある程度充電されるかとは思うけれど……
やはり太陽光による加熱問題から全く逃れられない。
この程度の小さなソーラーだと、発電で得られる恩恵よりも、日光を当てることで早まるバッテリーの劣化による損失のほうが大きいかも。
しかしRAVPowerは、中国のガジェットブランドの中では比較的誠実な表示をしている方だとは思うけど、
ご注意: 太陽光、USB接続で蓄電ができますが,ソーラー充電が太陽光の強さや電池パネルの変換率により不安定で、主に応急LEDライトのために電源を提供する。旅行、キャンプなどアウトドア活動するとき、太陽エネルギー充電はあくまで予備の電源使っていただきます。
と書いてあった。
ライトをしばらく使えるようにする程度の充電量だ、というのは、正直な表記だと思う。
まあ、登山で万一のときにSOSライトが欲しい、でも電池はスマホの充電に使い切ってしまった、というようなときなら、ソーラーで充電すればいいと思う。
買う?
というわけで、私は買いたいとは思えなかった。状況次第で役立つ製品もあるとは思うんだけど。
私はソーラーの利点として、「電気を使いたい場所で発電できる」ということがあるとは思ってはいる。
けれども、今日日のスマホなどのモバイル端末の消費電力は、持ち運べるサイズのソーラーの発電量とは釣り合わない。
電力をまかなえるようにするには大きなパネルが要る。大きいものを持ち運べるように折りたたみとかにすると、強度に不安が出る。
小さいパネルで妥協すると、性能的に意味が薄くなる。
陽射しとリチウムイオン電池の相性も悪い。
とはいえ、ソーラーが好きだというのも正直なところで、何か「これなら」と思うようなものが出たら飛びつきたいとも思う。
けれども、今売られている「ソーラー+リチウムイオン電池」の組み合わせは、私が8年前に試して感じた懸念を、解決とか低減しているものとも思えないのだ。
おまけ:発電効率について
RAVPowerは中国のガジェットブランドとしては誠実、とはいうものの、「転換効率は21.5%-23.5%に達する」などという表示があるのは頂けない。
もしそんな高効率のソーラーパネルがあったら、住宅用パネルで世界最高クラスの発電量を誇るSunPowerの製品を超えるレベルだ。おかしい。
多分RAVPowerが言ってる効率というのは、太陽電池セル単体の数字だろうと思う。
取り扱い可能な太陽電池パネルにするには、セルに配線をつけて、ガラス板に樹脂で封入して固定する必要がある。
そうすると、ガラスや樹脂が光の一部を反射してしまってロスするし、配線がセルの表面に被ってロスしたりもする。
また、パネルにしてからの変換効率は、最大出力を、パネル全体の面積で割って求める。
セルよりも一回り大きなガラスを使わないと封入できないし、外枠などをつけるならそれも含めたサイズで計算する。
RAVPowerの24Wモデルについて変換効率を計算すると。
出力24Wという数字は、そのまま信用しておく。
広げたときの面積は、86 × 30(cm)だから0.258㎡。
24W / 0.258㎡ = 93.02 W/㎡、という数字が出る。
で、太陽光は1平米あたり1000Wほど降り注いでいるので、それを93.02Wの電力に変換できるなら、効率は9.3%ということになる。
住宅に取り付けるものだと、良いので19%くらい、廉価なものでも15%くらいある。比べて9.3%とは低く見えるが、そうでもない。
住宅用のは畳一枚くらいのサイズだ。大きく作れば、ガラスを大きめにするとかで面積が膨らむ割合も小さくなる。折りたたみなども当然できないから、それで膨らむ面積もない。
持ち運び可能な小さいサイズで9.3%だったら、別に悪い数字ではない。
まあその、「モジュール変換効率9.3%」なんていう数字をそのまま書いたら、住宅用の19%と比べて性能が悪いと思ってしまう人も多かろうから、書きづらいのもわかるけどね。
でもセル単体であろう「21.5%-23.5%」なんて数字をそのまま書いちゃうのも、良いこととは言えないな。