堺風の頭部

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LUMIXの弟分? D-snapに就いて

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 こんなカメラを見つけてきた。

 Panasonicのデジカメは、LUMIXのブランドですっかりおなじみのものになった。
 ファーストモデルDMC-F7が発売されたのは2001年のことだから、オリンピックを過ぎたら20周年だ。
 オリンパスと肩を並べて、フォーサーズ陣営でレンズ交換式カメラを初めたのも2006年、ミラーレスのマイクロフォーサーズを始めたのが2008年。10年で、業界的にも無視し難い一大勢力になっている。

 そんなPanasonicのデジカメには、もうひとつ、LUMIXの弟分のようなブランドがあった。
 それが、今回のD-snapだ。

 

D-snapとは 

 純然たるカメラとして、ライカの協力を得て造られたLUMIXに対して、D-snapは何が違うか。

 スチル撮影だけでなく、ムービー撮影もこなせる。もちろん音声つきで。
 そして、ミュージック&ビデオプレイヤーにもなる。
 小さなSDカード(当時の比較対象はコンパクトフラッシュスマートメディア)のメリットを活かせるコンパクトボディに、スチル&ムービーカメラ兼プレイヤー機能を詰め込んだ、「SDマルチカメラ」というのが当時のウリ文句だった。

SDマルチカメラ SV-AV10 商品概要 | ムービー/カメラ | Panasonic

 こいつが2002年2月発売の初代モデル。
 おもちゃみたいに見える外観だけど、これがなかなか尖ったコンセプト。

 320x240の動画を、メモリーカードと電池の容量が許す限り連続撮影できる。もちろん音入り。
 この頃の一般的なスチルデジカメの動画機能だと、320x240を15秒、音声も入らない、という程度が当たり前。
 まあ三洋電機DSC-MZ1なんていう、640x480音声入り動画をマイクロドライブに連続撮影できるのもすでに存在したけど、あれは当時業界屈指の技術力があった三洋電機が、とにかく高速連写と動画撮影を全力で追求したような代物なので、ちと特殊すぎる。

 静止画は35万画素。多分CMOSセンサーで、おもちゃデジカメと変わりなさそうだ。ここは特に優れていない。

 プレイヤー機能としては、まずMP3プレイヤーになる。
 さらにAV入力端子がついていて、アナログ入力でテレビやビデオの録画もできちゃう。それを持ち出して外で見るなんてこともできる。
 2002年当時の最もポピュラーな映像ソースであるテレビ映像を、こんな小さな機械で持ち出せちゃうのは、当時としては新しいことだった。
 液晶モニターも11万画素で、アナログテレビくらいの画質なら見るに耐える。廉価モデルのデジカメだと6万画素とかだったりした頃なので、ここはコンセプトのために奢っている。

 これが、携帯電話くらいのポケットサイズに収まる。
 ガラケーで同じようなことができると思うかもしれないが、J-PHONEの仕掛けでカメラ付きケータイが出たのが2000年。2002年だと他のキャリアが後追いをしているところ。
 スチル・ムービー撮影と音楽・動画プレイヤーがひとつになったガジェットなんて、簡単に作れる時代ではなかった。

 

 パナらしからぬ攻めたガジェットであるD-snap、その後何度もモデルチェンジを繰り返すシリーズになった。

 しかしまあ、「携帯で同じことできるやん」となると存在意義が失われるD-snap、そうなって衰退した。
 今回私が手に入れたのは、最終世代モデルのSV-AS3。2004年の発売。

 2004年モデルのケータイは、docomoだと900シリーズが始まる。
 SH900iだと、もう200万画素でスチルが撮れて、320x240の動画も撮れる。音楽・動画プレイヤーに使うのは相当面倒ではあったけれど、できることはできる。
 大体同レベルの性能であるD-snapは、もう単独の機器としては苦しくなってしまった。

 

SV-AS3について

 さて、今回のブツそのものにようやく話が到達する。

 D-snapも四代目ともなると、パワーアップもなかなか著しい。

 まず、スチル撮影は300万画素になった。CMOSではなくCCDセンサーで、ちゃんとメカシャッターもついている。1/3.2型と極小だけれど、おもちゃではないデジカメと呼べるものを載せている。

 動画は相変わらず320x240・音声つき・SDカードの容量と電源の許す限り連続で撮れる。

 かつてAV入力でテレビ録画などができたが、その機能はオミットされてしまった。
 そのかわり、VIERAやDIGAでSDカードに録画した番組を再生できるようになっているようだ。DIGA手放したから試せないが。

 MP3プレイヤーにもなる。マイクロプラグっぽいヘッドホン端子がある。マイクロプラグのヘッドホン手元にないけど。
 ただ、著作権保護の関係があって、ただSDカードにMP3ファイルをコピーしても再生できない。SD-Jukeboxというソフトを通してPCからコピーする必要がある。
 SD-Jukeboxはバンドル版でなければ有料だし、今のWindows 10 64bitで動くかどうかはわからない。
 カジュアルコピーが溢れかえることを止めたのは良心だったのか、そんなのお構いなしだったiPodや海外製プレイヤーにむざむざ負けるようなことをしていただけなのか。

 

スタイル

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 さて、スタイルは、前から見るとこう。
 ストロボの位置や文字の向きからして、縦型スタイルのカメラなのがわかる。

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 そして背面はこう。やっぱり縦型。

 カメラの常識からすると、シャッターボタンは上側面についているべきだ。
 D-snapはどうかというと、この背面の赤いボタンがシャッター。

 まあ筐体が小さいから、右手で下半分を鷲掴みにして親指でシャッターを押すことはできる。
 できるんだけども、ブレる。当たり前だ。「カメラ」の感覚で作ったら絶対にこんなシャッターボタンにはしない。
 ただまあ、写メールブームの最中で、ガラケーで写真を取るときのシャッターボタンもこんな位置だから、いけると思ったのかもしれない。ブレる事実が消えるわけじゃないが。

 

 真ん中の白い丸いやつは、トラックボールになっている。押し込むと決定ボタンにもなる。
 ユーザーインターフェースは、ボタンでメニューを呼び出して、トラックボールで選んでいく。
 徹底的にメニュー式のUIで、ボタン一つで即座に何か処理されるのは、シャッターボタンと+-のボリュームボタンくらい。

 操作性は、ひとこと、駄目。

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 トラックボールなんてアナログな入力機器をつけておきながら、メニューは項目を選択するだけだから、アナログ入力の必要がない。
 デジタル入力でいいところにアナログコントローラーをつけるのは、使いにくくなるだけだ。こんなのは十字キーにすべき。

 まあ、プレイヤーとして使う時に、数十数百と項目があるのを素早くスクロールさせて選びたいといったときに効果があるかもしれないが……

 トラックボールが光る意味? わからない。

 

 UIで唯一優れているのは、スイッチだと思う。
 上の写真の、右手の小さな赤ランプの横に、ちょっとだけ突起がある。あれがスライドスイッチの指がかり。
 ちょっと固めながら、動きに渋さがなくて心地よい。ポケットで誤動作もしづらいし、入れようとして入らないこともない。
 ほんとにPanasonicらしく、機械的なところはいい。
 デジタルでソフトウェアを絡ませると、とたんにセンス最悪になるのがパナ式。

 そしてスイッチの良さを台無しにするのが起動の遅さで、5秒くらい待たされる。
 入れたSDカードが2GBだったので、256MBとかなら早くなるかもしれない。手元にないので試せないのだが。

 

 電源は、VW-VBA21という入手の難しそうなバッテリーだが、なんのことはない、フジのNP-60と同じだ。
 わりと大ぶりで、1050mAhもある。おかげで連続稼働時間はかなり長い。手元のものは、もう14年も前の電池だというのに、問題なく長時間使えそうだった。

 また、丸ピンのACコネクターがあり、4.8Vだという。
 PSP用USB電源ケーブルで入力できるし、本体充電も可能。
 ただ、バッテリーを抜いた状態でACで動作させようとしても、「バッテリーを入れてください」と警告が出て動かない。

 PCとの接続は、普通のUSB mini-Bコネクターがある。マスストレージクラスで認識するので、いちいちSDカードを抜く必要もない。
 しかし。ACアダプターも同時に接続しなければカードリーダーとして立ち上がってくれない。ケーブル2本繋ぐ必要あり。

 

実写

 前口上が長かったが、撮ってきた。

 露出補正やホワイトバランスなども、機能としてはあるが、操作がめんどくさすぎるのでやっていない。単に被写体に向けてシャッターを切ってきた。

 レンズはライカ判換算35mm F4の、パンフォーカスレンズ。
 撮影距離は、レンズ前60cm~無限遠

 ISO感度の手動設定も、100・200・400から選べる。
 もちろんAUTOもあるのだが、シャッタースピード1/9秒でやっと増感するような古臭いオートなので、役には立たない。

 

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 足元に咲いていたオドリコソウを撮ってみたが、なんかピンボケ。
 寄りすぎかもしれないが、これくらいでも駄目か。

 看板などを撮影しても、寄りすぎでボケることがある。
 メモカメラとしてもちょっと微妙かもしれない。まあ、少しボケるだけでメモの目的は果たすけれど。

 

 

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 しかし、ちょっと離れるとそこそこいい感じに写る。
 向こうのワシントンホテルの建物が歪んでるのが気にはなるけど、ノイズを無理に潰さずに素直に記録してるような画質。
 同時期のケータイのカメラだと、2~300万画素あってもノイズリダクション効かせすぎて妙な写りになってるのが多かった。D-snapはずっと「カメラ」に寄った画作りに見える。

 色が地味なのは、曇り空だったので仕方ないか。しかし変に彩度上げて記録されるよりはいい。

 

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 ヒマラヤユキノシタ

 

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 パンフォーカスレンズのカメラは、遠景がちょっと甘かったりしがちなものだけど、これはだいぶ遠景をカバーするピント位置のようだ。
 近くはボケるけど、遠くはほぼボケない。

 それにしても、変なホールドをせざるを得ないせいだろうか、どうにも水平が取りづらい。傾く。

 

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 背後で太陽が少しだけ出て、明るくなったところで一枚。
 まあ薄曇り程度の明るさだけど、多少色味が出た。

 

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 りんくう公園の内海、今日はかなり潮が引いたタイミングで通りかかった。海藻らしいのが青々と。
 あたりに小さな尖った巻き貝が無数にいて、周囲からピチピチという音が幾重にも重なって聞こえていた。多分貝が発しているんだと思う。
 動画でその音が録れないかと思ったが、あいにくマイクが拾ったのは空港連絡道を通る車のエンジン音だけだった。

 

使用感など

 まず、カメラとして意外によく写る。
 無理してないレンズで、素直な処理で画像を出してるんだと思う。

 持ちにくい・シャッターボタンが押しにくいというのはあるけど、パンフォーカス機のピンボケ気にせず向けた方をすぐ写せる感覚は好ましい。
 起動が遅いという難点があるけれど、電池持ちがかなり良いので、スイッチ入れたままぶらぶら被写体を探せば、起動の遅さに苛立つこともない。
 D-snapという名前らしく、スナップを撮るにはなかなかよい。

 こういう多機能ガジェット、2010年以降くらいなら同等のものが安作りのおもちゃとして作られてそうだけど、D-snapは2004年のもので、Panasonicクオリティで作られている。
 当時は決して志の低いガジェットじゃなかったはずだし、品質に関しては、触った感触から明らかにしっかりしている。

 時代の徒花ではあるが、パナが真面目にこれを使う時代もあったんだな、と、懐かしさのような面白さのようなものがある。