なんだか、先日の弥生賞で変な事態があったようだ。
いままでレースに出走したことのない未出走馬が、いきなり重賞(GI~IIIがついてるやつ)に出ちゃった。
そんなんやっていいのかと思いきや、2歳馬限定レースと、3歳クラシックのトライアルレースに限っては、未出走馬出場禁止のルールがなかったらしい。
しかし現実問題として、レースの経験がゼロではなかなか勝てるものではない。初出走馬のみの新馬戦と、出たけど勝てていない馬のみの未勝利戦とが分かれているくらいで。
1984年にグレード制度が始まってから、未出走から突撃する馬はいなかったらしい。(小倉や新潟の2歳ステークスならある気もしたけど、ちょっとはっきりしなかった)
結局ヘヴィータンクは、一着から22.9秒差のぶっちぎり大差負けと散っていった。
何のためにそんな異例なことをしたんだろうか。
なにがなんでも皐月賞説
まず、弥生賞は皐月賞のトライアルレース。
3着以内に入ることができれば、皐月賞の優先出走権が得られる。ない場合はこれまでの獲得賞金順になるので、未出走馬の賞金ゼロでは間違いなく落ちる。
上の記事によると、
- 弥生賞三着以内には皐月賞優先出走権は出る
- 皐月賞本番は、獲得賞金ゼロの馬は出られない
- 賞金はレースに勝つか、重賞で二着以内に入らないと加算されない
- 三着だと優先権はあれど出走条件は満たさず、結局皐月賞には出られない
という話になるらしい。
ともあれ、「皐月賞に勝てるレベルの馬だから」と、デビューから弥生賞に突撃したというなら、まあ話はわかるかもしれない。
いきなりクラシック前哨戦に出走した前例として、1988年青葉賞のジュネーブシンボリがある。
ジュネーブシンボリの場合は、スケジュール的にいきなり青葉賞に勝たなければダービーに出られないから、勝つ気で出走してきたらしい。しかも一番人気を取っている。(負けた)
この時点では青葉賞は重賞ではないオープン特別だったとか、優先出走権もおそらく設定されていなかったなど、今回のケースとは条件が違うけれど。
今回のヘヴィータンクも、同じように皐月賞出走を目指して勝つ気で弥生賞に挑んだのだろうか。
しかし、「遅れてきた大器が皐月賞出走を賭けての挑戦」と目されるようなケースなら、単勝オッズ194.6倍の9番人気なんてこともなかろうと思う。ジュネーブシンボリは一番人気だ。
それに、まだ皐月賞トライアルは他にもあるから、もう一度挑戦もできた。
そもそも、大器だったら皐月賞を諦めて、ダービーなりNHKマイルカップに向けて、未勝利戦から上がることもできただろうし、普通そうする。(日程ギリギリの例ではないけど、フサイチコンコルドは年明けデビューから皐月賞を回避して、二戦二勝で挑んだダービーに勝っている)
ダービーに出られなければ三歳の春が終わってしまうのだから、「なんとしてもダービー」はわかるけど、「なんとしても皐月賞」は、ちょっと変だ。
出走奨励金狙い説
こちらの記事によると、出走奨励金というのを狙っているのでは、という。
ヘヴィータンクを管理する森秀行調教師は、「オーナーに1円でも多く還元する」というスタイルであるそうだから、貰える支給金をもらいにいったと。
こちらに各種の見舞金などが掲載されている。
キャロットクラブは一口馬主をやっているところで、馬主にとっては馬が稼いでくるお金は重要な点なので、その情報も開示しているようだ。
で、確かに出走奨励金がある。
弥生賞は重賞競走なので、6~10着の馬に、1着本賞金の数%の割合で出走奨励金が出る。
今年の弥生賞は10頭立てだったから、ビリでも10着。1着本賞金は5400万円なので、2%なら108万円。でかい!
しかしながら、奨励金目当てに少頭数・高額賞金なレースへの無理な出場をブロックするルールもあるようで、あまりにも一着馬から引き離された馬には支払われないとのこと。
オープン競走を除く平地競走で、距離2000m以上の芝の競走なら、一着から5秒以内でゴールする必要がある、という。おや?
「オープン競走を除く」とある。
弥生賞はオープン競走だ。ということは、5秒以内でなきゃ払わないルールは適用されないっぽい。
他に、特別出走手当というのもある。
これは、まず出走しただけで出る。重賞競走なら431,000円とのこと。
これも色々、増額・減額やらの細かい補足ルールがあるけれど、「3歳限定の平地オープン競走に未出走の3歳馬が出場」というのは、見事にすり抜けて満額もらえてしまうようだ。
ひとつだけ、「失格馬には交付しない」とある。
失格についてJRAの競馬用語辞典によると、「定められた時間を超えて入線した場合」も失格とある。
これはタイムオーバーのことをいっているらしい(こちらのQ44も参照)のだが、しかし重賞競走は除外されている。
ということで、ヘヴィータンクは特別出走手当も満額貰えそうだ。
森秀行調教師がルールの穴を付いたような感じがしなくもないが、最初の記事どおり、ヘヴィータンクは151万1000円を稼いできたらしい。
やはりプロたる森調教師と、スポーツマスコミのライターさんの目は確かなのだろう。
(ちょっとネットで検索した限り、「大差負けじゃもらえない」という説も見かけたので、確認してみた次第)
登録馬抹消給付金について
ところで、弥生賞敗退後即引退を発表したヘヴィータンクだが、これにより「競走馬登録抹消給付金・同付加金」の額も変わるらしい。
先程のキャロットクラブの賞金解説ページの下の方、12番にある。
1回だけレースに出た馬が、3歳春季競馬で引退した場合、抹消給付金は165万円となかなか多めになる。
未出走で引退していると130万円。
もう1レース出場を増やしても165万円で変わらない。
2レース増やして3走にすれば185万円、さらに2レース増やして5走にすれば205万円と20万円ずつ増える。
ただし、引退が夏競馬に入ってしまうと、40万円減額される。
別に支給される付加金も、100万円から60万円に減額される。あわせて80万円も減る。
ヘヴィータンクは、併せて265万円貰えるようだ。
無理矢理春のうちに出走回数を増やしまくる以外には増額する手段はないので、まあ、最大の金額をゲットしたといえそう。
そういうわけで、引退まで含めて最大限のマニーをゲットできる手段だったようだ。
すごいぜ森調教師。
来年以降、これを狙ってクラシックトライアル重賞に出走する馬が出現するかもしれない。
しかし11頭立てより増えてしまうとビリでは貰えなくなる。未勝利・未出走の強いとは言い難い馬たちが、後ろの方で10着争いを繰り広げるような光景がありえるんだろうか。
それとも、そういうセキュリティホールみたいなのは塞がれてしまうだろうか。