堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

苦労人がいっぱい(大相撲)

 大相撲ネタ。
 逸ノ城が実に良い相撲取るようになってきていて嬉しい。今年は波乱の年になりそうな感じだし、逸ノ城優勝も一度くらいあるかもしれないなあ。

 

 私は今場所からAbema TVでの視聴になったけれど、今までのNHKよりだいぶ柔らかくて雰囲気は違った。
 相撲初心者を置いて解説しながら、というスタイルで、私は結構嫌いではない。

 それで、その初心者向けの解説として、大怪我で番付を落として復活したなど、苦労人力士のエピソードがよく語られていた。
 優勝した栃ノ心もそのひとりで、他にも何人か説明されていたが、一方さっぱり触れてもらえなかった人もあった。
 私選で苦労人といえそうな力士を、ここにまとめておこうと思う。(うぃきぺに書いてある以上の珍しい情報は持ってないが)

 

栃ノ心の膝の怪我

 1987年生まれ。ジョージア出身。春日野部屋
 初土俵は2006年三月場所。

 最初は怪物的なやつとして、序の口から十両まで駆け上がった。そして2008年一月場所に十両に上がったすぐその場所、優勝を決めてしまった。
 次の場所も勝ち越して幕内に上がって、それから前頭に定着。小結までは行ったことがあるけど、三役の壁に当たると止まっちゃう。
 格下には強いけど格上に弱い感じで、番付が上がって三役と総当たりになると崩れて落ち、前頭下位だと勝ちまくってまた上がり、という動きだった。

 そういう時代は長く続いていたけど、2013年7月場所、徳勝龍に勝った取り組みで、右膝の靭帯を切る大怪我を負ってしまった。この途中休場から、続く三場所を全休。
 これで、一気に幕下にまで下がってしまった。

 十両はまだしも、幕下にまで落ちてしまうと、「関取」という立場を失って、協会から給料が出ないとか、部屋の中での扱いも大きく変わってしまう。
 三役まで行ったことがあるような関取が幕下に落ちてしまうと、引退する人も多い。
 栃ノ心もやはり考えたというけど、親方の励ましもあって復帰。

 2014年3月場所で、幕下55枚目の番付で復帰した栃ノ心、さすがにモノが違って全勝優勝。もう一場所は幕下6枚目でまた全勝優勝。あっさり十両に復帰。
 十両に復帰した2014年7月場所は、怪物(当時)逸ノ城が番付を駆け上がっていたところ。5月場所は逸ノ城が優勝していた。二連覇へとトップを走っていた逸ノ城に千秋楽で土をつけて、さらに優勝決定戦でも下して逆転優勝。
 さらに9月場所も全勝優勝を果たして、実に幕下から四場所連続で優勝を決めての幕内復帰。猛烈だ。

 幕内復帰後、前より格上にも勝てるケースが増えた感じで、日馬富士を破っての初金星も。怪我の前には、32場所も幕内にいたけど金星を取ったことはなかった。
 2015年9月場所についに小結に復帰。三役経験者が幕下55枚目まで落ちてから三役に復帰する、というのは史上最低の番付からの復帰。また、三役として初めての勝ち越しも決めた。(怪我する前は四回小結になったが、すべて上がった場所で負け越してすぐ陥落)

 その後、やっぱり膝の調子が悪い場所があったり、怪我前ほどじゃないけど番付が上がるとすぐ落ちる傾向も引き続きだけど、2016年5月場所で10勝・技能賞獲得で関脇に。負け越してすぐ陥落したけど。

 

 今場所の優勝は、やっぱり絶好調だったんだろうなあ。
 正直にいえば、特に数場所前から本格化の気配とか見せていたとか、そういうこともなかった。場所前から栃ノ心優勝と予想できた人は多分いないと思う。
 少なくとも、膝の調子は良かったんだろう。そうでなきゃ、御嶽海を吊り出して逸ノ城さえ持ち上げるようなパワーが出せるはずもない。。

 あとはまあ、とにかく横綱に勝てない栃ノ心だったけど、日馬富士は引退、白鵬稀勢の里は当たる前に休場。鶴竜には負けた。
 琴奨菊も苦手だったけど、彼は流石に力を落としている。
 そろそろ、苦手という相手がいなくなってるのかも。膝の調子がいいときに相撲が噛み合えば、優勝まで行ける面子になってるんだろう。

 好調時に噛み合えば優勝まで行けそうな力士は他にもいそうだから、今年は乱世みたいになるのかもしれないなあ。

 

千代大龍の糖尿病

 1988年11月14日生まれ。荒川区出身、九重部屋
 明月院秀政というかっこよすぎて漫画みたいな本名。

 初土俵は、あの八百長問題による開催中止直後の、テレビ中継のない2011年3月技量審査場所だった。
 元々学生横綱出身で幕下付け出しからのデビュー、しかも引退した関取が続出して番付上位ががら空き。ここでいきなり幕下優勝でも決めたら、いきなり次の場所は十両という史上最速で関取になれてしまうチャンスだった。
 が、ここで蜂窩織炎で途中休場。幕下付け出しでデビューしてその場所で途中休場するなんてのは戦後初。

 とにかくビッグマウスで、支度部屋で居眠りするほどハートの太い男なんだけれど、若くして、しかも初土俵翌年という早さで糖尿病にかかってしまう不運に遭った。

 立ち合いのぶちかましの強烈さが注目されだした矢先、糖尿病が目に来て網膜剥離緑内障を起こしてしまった。さらに両足血行障害が出ちゃって休場したことも。
 膝の怪我もやっていて、20代にしてもうぼろぼろ。誕生日が世界糖尿病デーだからって、なんともツキがない。

 まあ、ちょっと血糖値改善したらインシュリンをやめちゃったり、カルピス大好きすぎて2倍とか1.5倍割りで飲みすぎてたらしいとか、焼肉大好きだという不摂生もあるらしいが。
 そもそも稽古も嫌いで「99%の実力と1%の努力でやってきた」と豪語するタマで、相撲教習所もサボりすぎて卒業できなかったりしたことも。

 でも、どんな世界でも小真面目な人が多くなった今時には珍しい生き方をしていて、それで幕内で相撲を取り小結までは上がったんだから愉快だ。
 ハートが太すぎるせいで糖尿病を悪くしてる気もするけれど、ハートが太すぎるからこんな病気でも引退を考えずに続けてる気もする。
 もちろん親方は叱らにゃならんだろうし、傍目にもったいないと思いもするけど、こんな人もいたほうが面白くも思えるし、優勝でもしたらさぞ痛快だろうと思う。力がない力士ではないと思うし、好調な場所で色々歯車が合えば、もしかしてあるかもしれない。

 

千代の国の膝の怪我

 1990年7月10日生まれ、伊賀市出身、九重部屋
 初土俵は2006年5月場所。

 エリートだとか怪物だという人ではなくて、初土俵から六年目の11年7月場所に初めて十両に上がって関取になれた。
 それからは、十両と幕内を往復するくらいの位置に定着した。

 ちょっとかわいい系の美形なのに、相撲は闘志あふれる熱い取り口が実に良くて、私は遠藤や勢より千代の国が贔屓なんだけれど、しかしあの激しい相撲がどうしても怪我を招く。
 手、肩、太もも、踵骨と何度も怪我をして、それからついに膝の半月板をやった時には、二場所全休で幕下どころか三段目にまで落ちてしまった。

 三段目はさすがに全勝優勝して幕下復帰。それから幕下を四場所で勝ち上がり、十両も三場所目に優勝を決めて幕内復帰。それから前頭の中ほどに落ち着いている。
 最近は幸い休場もなく、勝ち越す場所も多いんだけど、やっぱりあの勢い溢れる取り口で小さな怪我はしているようだ。膝の状態もやはり悪いみたいで。

 持ち味の熱い相撲が、怪我しそうでハラハラさせる原因でもあるという、ちょっと応援に困るんだけど応援せずにいられない力士。
 好きな力士をひとり選べと言われたら私は逸ノ城なんだけど、三人選べだったら千代の国を入れるよ。

 

竜電の股関節骨折

 1990年11月10日生まれ、甲府市出身の高田川部屋
 初土俵は2006年3月場所。最近は高卒・大卒の力士が多いんだけれど、竜電は中学を出て入門。栃ノ心とは同期になる。

 初土俵から幕下まではスムーズに上がっていって、「平成生まれ発の関取候補」なんていわれていた。高田川部屋でもホープだと期待されていた。
 しかしそこで足踏みして、2010年11月場所には髙安らが一足先に十両に上がってしまい、平成生まれ初の関取の座は射止めそこねた。

 追い越されたことに発奮して、2012年9月場所になってしまったが十両に昇進して関取に。
 が、その場所で右股関節という難しいところを骨折してしまった。
 幕下に落ちた翌場所は負け越し、それから二場所全休して三段目に降格。三段目として出場するも、3番取って残り4番は休場、さらに二場所休場。それから1番取って勝ったけど残りは休場、という場所が四連続。
 実に十場所、一年半以上に渡ってまともに出場することもできない苦しい時代を過ごした。その間に三回も同じ場所を骨折していたらしく、普通に考えてもう無理じゃないかと思えるほど。

 2014年9月場所、序の口十七枚目という、落ちるところまで落ちた番付で、ようやく全日出場できる状態に回復できた。
 さすがに序の口ではモノが違いすぎるので全勝優勝。上がって序二段でも、さらに上がって三段目でも全勝優勝。

 幕下はストレートに勝ち上がるとはいかず、十場所過ごして突破して、十両に上がって関取に返り咲いたのが2016年11月場所。
 十両には七場所いたが、そのうち6場所は勝ち越し。優勝も二桁勝利もなかったが、この時期の十両は毎場所実力拮抗の大混戦で、10勝5敗や11勝4敗で優勝になるような年だった。そんな中で安定して勝ち越せるくらいまで力を戻してきた。

 十両から序の口まで落ちて、そこから幕内に上がるというのは、これまでには琴別府しかいない、史上二人目のことだった。

 27歳とはいえ10年以上相撲をやっていて、ついに上がった幕内では、10勝5敗をあげて敢闘賞を受賞。ここまでの相撲人生が敢闘賞ものだなあ。

 

蒼国来の不当解雇

 1984年1月9日生まれ。中国の内モンゴル自治区出身、荒汐部屋
 中国人ではあるけれど、本名はエンケトゥプシンという。
 モンゴル人力士は都市部出身の人が多くて、モンゴルと言われて想像するような遊牧民出身なのは、逸ノ城とこの蒼国来。
 モンゴル相撲からレスリング、そして中国にスカウトに来た荒汐親方に直談判して相撲の世界へ。

 2003年9月場所に初土俵、次の場所は序の口優勝。
 それから進んだり足踏みしたりしながら、7年目の2010年1月場所に十両に上がって関取に。十両は四場所連続勝ち越しでスムーズに突破、2010年9月場所には幕内に上がれた。
 幕内でも三場所中二回の勝ち越しを決めたが、そこに八百長問題が勃発。

 蒼国来は、本人も荒汐親方も共に「一切関与していない」と強く否定していたが、相撲協会の特別調査委員会は八百長関与を認定して、解雇処分にしてしまった。
 蒼国来と親方は不当解雇だとして、法的手段に出て争った。
 荒汐親方は、はるばる内モンゴルから連れてきた蒼国来をとことん守って、解雇処分の後も部屋に住まわせて稽古もさせ、追放しろと協会から圧力を受けたりもしていた。それについてもちゃんと戦った。

 結果、蒼国来が裁判に勝利、八百長の十分な証拠はないとして、解雇処分は無効となった。
 二年の時を経て、蒼国来は力士として復帰することができた。

 二年も休んでからだと相撲なんかまともに取れないんじゃないか、けがをするんじゃないかと心配されたけれど、怪我もなく、成績もそこまで悪くなかった。
 復帰した2013年中は負け越して十両に落ちた程度で、2014年には調子を戻して幕内復帰。
 2017年1月場所は12勝3敗の絶好調で、技能賞を獲得してみせた。

 番付の乱高下はないけれど、苦労の大きさと二年のブランクを考えれば、乱高下させなかったことこそすごい。
 二年も損してもう年長の関取になってしまったけど、最近は三十代後半でも活躍する人も増えてきてるし、まだまだやってほしい。

 

その他

 まあ、怪我に苦しむといったらもう多くの関取がそうだから、どこまでを苦労人とするかは迷うところだったけれど、まあ独断で五人を挙げた。必ずしも番付の急降下は伴ってないが。

 もちろん他にもいる。
 安美錦は、三十代後半にしてアキレス腱断裂で十両に落ちてから、史上最年長での幕内復帰なんても大したものだけど、もうこの人の場合は苦労人というか鉄人みたいなものでは。

 

 竜電、栃ノ心、千代の国はいずれも大怪我から大きく番付を下げたんだけど、半年とか一年とか長い期間でも休んだから番付を落としたわけで、そうしてでもきちんと治したからこそ復活できたように思う。
 長く休んでもう幕下に落ちそうな宇良が、これからまた復活してきてくれるだろうか。
 照ノ富士はもう、しっかり休んで治すと決断してほしい。こんな姿で終わっていくことになったらあまりに惜しい。

 

 故障や病気で番付を落としてからのドラマチックな復活劇、というのも見ていてすごいと思わせるものではある。
 でも本当は怪我なん少ない方がいいし、してしまったなら公傷制度復活とかでしっかり治せる体制とかもほしいようにも思う。
 公傷制度は、かつて大怪我からの番付急降下や、それを嫌がっての無理な強行出場が相次いだことで創設されて、それから制度が乱用されているとされて廃止された、という経緯があるんだけど、どうにか上手くできんものかな。