堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

天王寺ソフマップ閉店によせての思い出話

ソフマップ天王寺店閉店へ

 天王寺MIOのソフマップ、思えば随分前から使ってたもんだけど、今年の1月8日で閉店するとのこと。
 知らずに行ったらなんだか棚の配置が妙で、立て看板見てわかった。

 そんなに短くない営業期間のはずだけど、いつからやってたんだったかな。
 確か、2004年に閉店した堺東店と並立してた時期がわずかにあった気がするんだけど、ちょっと確信はない。

 

 

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 最後の記念というか、まだこれ売れ残ってたんかと思いながら買っておいた。
 2014年くらいに、もはや使われなくなっていたxDカードが、なぜか「ソフマップ限定入荷」とかいって各店に大量に入荷されたことがあったの。(オリンパスが保守部品として抱えておく時期が過ぎて放出したんかな)
 私は古いデジカメを漁るのが趣味だったから、その時にも喜んで買い込んだ。とはいえ、やっぱり喜ぶ人間の絶対数に対して入荷が多すぎたんだろうなあ。

 

 これで、大阪府ソフマップは、日本橋でんでんタウンにあるソフマップザウルスしかなくなる。

 私が知ってるのは90年代からになるけど、あの頃は電気街の覇者といわんばかりの勢いだったものだ。
 それがほとんど全部消えたんだなあ。

 

 今、でんでんタウンの賑やかなところはいわゆるオタロードなんば駅近くのエリアだ。
 けれど、私が知ってる90年代にはまだ、「でんでんタウンは南に行くほど安い」なんていわれて、恵美須町駅近くの方に流行ってる店が多かった。

 ソフマップも、80年代に東京から日本橋に進出して、店舗を広げ始めたのは恵美須町駅エリアだった。

 1号店は、今バーガーキングがあるところのちょっとだけ南。2015年までやってたから、忘れられた話でもないけど。5号店はその隣だったかな。
 道を塞いで向かいに2号店。ここも2017年春までやってた。3号店はその隣でよかったっけ?

 

 私が思い出深いのは4号店だった。
 交差点の角、やけに細くて高いビル。90年代にはPC用を中心に、ゲームソフトを取り扱っていた。
 さんざん遊びまくったPC-98の5インチフロッピー版のゲーム、大航海時代IIもウィザードリィVもみんなあそこで買ったなあ。細長い店の両壁面、ぎっしり詰まったパッケージ。
 スーパーファミコンなど家庭用ゲーム機も取り扱っていた。「マッスルボマー」を買いに行ったらめっちゃ行列で、何かと思ったらファイナルファンタジーIVの発売日に巻き込まれていた。

 2006年に閉店したんだけど、あのビルは後に、生活保護受給者を囲い込む搾取ビジネスに利用されたりして。嫌な気分になったもんだ。

 

 で、やっぱりソフマップは安かった。接客とか商品説明とかはあんまりしないけど、接客する家電量販店(ジョーシンとかニノミヤとか)よりずっと安かった。
 それから中古を扱ってたのも大きい。安くあげるなら全然違った。
 95年にWindows 95ブームが来るより前なら、パソコン買いにくる客なんてマニアがほとんど。ほしいものは自分で決めてある。淡白にただ安く売るソフマップの売り方が客にマッチしていた。

 ソフマップ以上に接客しない、売り場は値段表出したカウンターだけ、ほしいもの言って金払えば倉庫から物を持ってきてくれる、なんて売り方してる店まであった。そういうのが通る街だった。

 

 で、Windows 95ブームが来る。
 なんだか熱狂するようにパソコンが売れまくって、安くても20万円、高いと50万円以上のPC-98やFMVを飛びつくようにどんどん買う。バブル崩壊してたっつってもその程度の余力あったんだねえ。

 日本橋で買えば安い、って聞きつけた人が押し寄せて、まー賑やかなものだった。
 今は日曜日でも歩道を普通にすいすい歩けるけれど、当時は渋滞してたな。

 しかし、Windows 95とインターネットブームが日本を席巻したってことは、パソコン買う客がマニアから一般人へと一気にシフトしていったことになる。

 90年代後半にまにきゅあ団の「カオス秋葉原」っていう歌がちょっと流行ったんだけれど、あの歌では、秋葉原に「インターネットをくれ」とわけもわからず買いにくるおじさんの姿が歌われている。
 まあ、実際そんな感じの客も、私が中古パソコン屋で店員やってた2000年頃でさえ居た。90年代後半にはずっと多かったと思う。

 「カオス秋葉原」では、「インターネットくれ」のおじさんに、うまくパソコン一式売りつけてるけれど、さて。実際どうだろう。
 まずWindows 95が動く最新のパソコン一式必要で、モデムを買って接続してドライバーとかインストールして、プロバイダーと契約し、電話代が大変だからテレホーダイを契約して深夜11時以降にやれ、とか、パソコン触ったことも無いひとにゼロから説明するなんて、私はやりきれる自信がない。
 果たして、値段見て買っていくだけのマニアを相手にしていた店が、初心者の群れをまともに捌けたかどうか。

 

 多分だけれど、Windows 95・インターネットブームのせいで、90年代後半に、ソフマップ的な「パソコンショップ」が急激に時代に合わない商売になったんだろうと思う。

 一般の人は、ソフマップ的な店は「売りっぱなしで不親切」として嫌うようになる。
 家電量販店や地元の電気屋のパソコンも、日本橋で買うマニアから見れば高いけれど、困ったら話を聞いてくれるならそっちがいい。メーカーも初心者向けの製品をどんどん増やして、買いやすく仕向けていた。

 さらに、自作パソコンも流行り始める。
 かつてPC-98ソフマップで買っていたようなマニア層ほど、どんどん自作PCへと関心を奪われて、パーツ取扱店へ行くようになる。

 マニアと一般人、両方ともすぽっと抜けてしまった。

 

 とはいえ、ソフマップはまだしも、賑やかな場所がなんば寄りに移ればそちらに旗艦店を置いたり、初心者を取り込む策もある程度取っていた感じもあるし、自作PCのような新しい流れにも対応するように動いて、潰れるほどまで悪化はしなかった。

 パソコンを求める客の変化に対応できなかったのは、ソフマップのライバル店・STAND-BYの方だろう。

 90年代半ばまでは、ソフマップもスタンバイもやたらと元気がよかった。店舗もどんどん増やした。
 「ソフマップワールド」と「ハロースタンバイ」っていう、分厚いブックレット作って対抗するように配っていたりも。パソコン関係の記事はもちろん、椎名へきるが登場したり、読者投稿コーナーまであるような、内容的にも雑誌といっていいレベルの濃厚なやつ。もちろん無料。
 日本橋でパソコンが強力な商品だった間は、二大巨頭として殴り合いを繰り広げていた。

 しかし潰れたからいうけど、スタンバイの店員はめちゃくちゃ態度悪かったなあ。ソフマップは淡白なだけだけど、スタンバイは……
 買った周辺機器が不良品っぽくて問い合わせしたら、「Windowsが不安定なせいで不良品じゃない」とか抜かしやがるの。
 不良品のせいで不安定な動作してるのに、その結果を原因だと言い張る無茶苦茶なんだけれど、実際当時のWindows 95はしばしば不安定になった。客のせいにして返品返金を突っぱねる手口にしてたんじゃないかな。

 スタンバイは90年代末には業績を落とし、店舗もどんどん閉店していき、2001年には消滅する。最大9店舗まで膨れ上がったチェーンが、あっけないものだった。

 

 一方で、自作PCショップのようなニッチなマニア向けの店は、出せるなら恵美須町駅あたりで出したい。けど家賃は高いし空き店舗も出にくくて難しい。出せても、せいぜい雑居ビルの上の方とかの苦しいところ。(DOS/Vパラダイスなどが雑居ビル高層階に散見された)
 そうすると北にズレていくしかないけど、やはり賑やかな堺筋沿いには、まだまだ「電気の街」らしく、古くからのオーディオ・無線系の店やら、ジョーシン・ニノミヤなどが居る。

 90年代後半、自作PCパーツショップのような店は、一本裏手の筋にずれて店を構え始めた。
 PC用のアダルトゲームが流行していったから、その専門店もいくつもできていた。
  続いて2000年頃にはメロンブックスとらのあなも相次いでオープンして、同人ショップも生まれた。

 そんな感じで、オタク向けの商売が裏筋で盛り上がっていき、今でいうオタロードが形成されていった。
 アダルトゲームが退潮したり、メイドカフェが増えていったりしたような、ある程度の盛衰はあったけれど、今ではすっかり「日本橋」の中心地になっている。

 

 恵美須町駅近くは、スタンバイが潰れ、ソフマップも減り、だんだんと元気がなくなっていった。

 雑居ビル高層階のマニア店も、オタロードの方へ整理されていった。
 同人ショップの走りだった「えるぱれショップ」も、かつて恵美須町駅近くの雑居ビル高層にあったのだけど、とらのあなメロンブックスに客が流れて力尽きた。

 昨年ついにソフマップの店舗すら消滅し、かつての賑やかな店舗はもう、ジョーシンJ&Pテクノランドが残るくらい。
 マニア向けのショップでさえ、古手の店はもう中古パソコンのバスアンドタグしか思いつかないな。

 

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 上の方でちらっと、ソフマップ4号店跡が生活保護を搾取するのに悪用されてたことに触れてるんだけど。

 私がこの話を聞いた時になんとも寂しかったのは、ソフマップ4号店とその近くが、小中学生の私にとってのあこがれの場所だったからだろうと思う。
 賑やかで面白いものをたくさん売ってて、店も客もマニアで色々詳しくて、うちからは遠すぎて年に数回くらいしか行けなかったあの場所だ。行けるなら毎週でも行きたかった。
 しかしそんな場所が、ひどい不景気の日本で、悪い連中の黒い商売に悪用されてしまう、それくらい寂れてしまった。それが寂しかった。

 スタンバイが客を舐めた商売を改めてたり、ソフマップがもっと早く初心者フレンドリーなスタイルに変えたり、そんなことができていれば、まだ恵美須町駅近くが中心地だっただろうか。
 それとも、堺筋線の駅よりも、なんば駅近くのほうが便利だから、結局そちらに移っていっただろうか。
 今あるソフマップの姿も、十分に頑張っての結果とも思う。もうパソコンなんてメーカーすら儲けてない商品だしな。

 ま、こんなたらればに特に意味もないけれど。