ハッ
といってもマツダのことではなくて、カメラの話である。
カメラの世界では、「大仰な一眼レフカメラではなくて、手軽なコンパクトカメラでもズームを使いたい」という欲望は、かなり古くからあった。
それで、その時代の技術なりに生まれたのが、1980年にミノルタが先鞭をつけた、二焦点カメラ。ズームじゃなくて、例えば35mmと50mmを切り替えるようなもの。
また、80年代末にはブリッジカメラというのも出てくる。一眼レフよりは小さいけどかなり大きなボディに、3倍くらいのズームレンズがついた、コンパクトじゃない一眼レフでもないカメラ。
ブリッジカメラと同じ頃にも、一応コンパクトカメラサイズのズーム機もあった。
PENTAXが87年にリリースしたZOOM 70が、35-70mmの2倍ズームを搭載していた。
しかしながら、その世界初ズームコンパクトカメラのPENTAX ZOOM 70のレンズ、35-70mm F3.5-6.7と、結構に暗い。
ポピュラーなフィルムはISO100だから、テレ端は結構気を使って撮影しなくちゃいけない。
デジカメなら、撮像センサーが小さいから光学系が全体的にコンパクトになるので、あんなサイズで3倍ズーム、さらにデジタル補正も加えて5倍10倍とやっていける。手ぶれ補正とか、感度アップもできる。
しかし、フィルムカメラは、35mmフィルムで光学系を作らなくちゃいけない。手ぶれ補正もサイズ的に無理、感度もフィルム入れたら変えられない。
だからブリッジカメラは、素直に大きくした。
リコー・ミライなんかは、35-135mmF4.2-5.6と、一眼レフの標準ズームと変わらないようなスペックのレンズを、一眼レフと大して変わらないようなサイズのカメラに搭載してきた。(ちょっと実用性が怪しかったらしいが)
普通のズームコンパクトカメラは、とりあえずは2倍ズームに抑えておく、というものが多かったようだ。
しかしながら、だんだんズームが伸びていった。
テレ端70mmが、80mmになり、105mmになり、110mmになり、120mmになり、140mmになり、150mmになり、果ては200mmになった。
90年代末から00年代前半、つまり商品として末期のコンパクトフィルムカメラは、商品名にテレ端の焦点距離がついていたものだ。
オリンパスはμ-III 150とか、キヤノンはオートボーイ180とか、PENTAXはESPIO 200とか。
そうした結果、どうなったか。
「それは本当にまともに撮影できるのか」というような、酷いスペックのレンズを搭載したカメラだらけになった。
オリンパスμ-III 150は、37.5-150mm F5.1-13.3。
キャノンオートボーイ180は、38-180mm F5.6-12.9。
PENTAX ESPIO 200は、48-200mm F5.1-13。
デジカメと違って手ぶれ補正なんかないし、フィルムだから適当に感度を上げることもできない。
露出の知識があるなら、迷わずISO1600のフィルムを入れるだろうけど、21世紀にデジカメじゃなくこういうのを買おうという層は、よく知らずに安いからISO100を買ってしまうと思う。
200mmF13 ISO100で撮影して、フラッシュが光ってもさっぱり届かず大アンダー。プリントで強引に救って、ザラザラの絵が出ればマシ、くらいだろうか。フラッシュ切ったら手ブレしかない。
私がカメラを触り始めた頃は、まだ新品で、数万円の値札をつけてカメラ屋にズームコンパクトフィルムカメラが売ってたものだ。
もちろん見向きもしなかった。
どう考えても、まったく用途が見えない。
商品として誰も幸せにしなかったと思う。
あれは、客が望んだものだったんだろうか。こんなものでも、望遠が長いほうがいい、と信じて求めたのだろうか。
なんだか、メーカーが「これが客の望みだ」と思いこんだまま、ひたすら突っ走ってしまっただけのような気もする。
客はあくまで素人だから、実現困難な望みを持ってしまう場合もある。しかし作る方は、現実的でない商品とわかっていながら、無理やり作って提供するのが正しかったのか。
結局、全てはデジカメに食われて消えた。
そのコンパクトデジカメさえ、スマホのカメラに食われて消えていこうとしている。
ズーム、必要だったのだろうか。
さて。超長い前フリだったんだけど。
15年くらい前に、「なんでこんなバカなもん売ってるんだ」と思ってたズームコンパクトフィルムカメラ、もちろん今更商品価値はゼロに近い。
買ってみた。
オリンパス μ ZOOM 140 VF。レンズは38-140mmF3.8-11。まあ、上の例よりちょっとマシだけど、ちょっとしかマシじゃない。
VF、というのは、シャッターに連動してファインダーも閉じるシステム。シャッター切れてるかどうかひとめでわかる、ちょっとしたことだけど気の利いた機構。
デジカメ時代にも続いた、前面スライドバリアがそのまま電源スイッチになってるスタイルは、私は昔から好き。至って合理的だと思う。
電源を入れてズームを伸ばしてみると、まあなんとも力強く伸びる。
さて、これにあえてISO100のフィルムを投入した。
これで、9月2日はPhotodnのオフ会なので、この時代の徒花のようなカメラがどんなものなのか、実際撮影してきます。
実はちょっと使ってみたかったのだ。