堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

最薄スイバルFinecam SL400R

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 さて、前記事のこの写真に写ってた、水色のパネルがついたコンパクトデジカメ、Kyocera Finecam SL400R。

 京セラのデジカメ事業は2005年に終了するが、SL400Rは2004年の製品だから、かなり末期の製品。
 スイバル大好きな私はもちろん、以前SL300Rを所有していたことはあるんだけど、SL400Rは一応初めて。まあ画素数以外ほとんど変わらんけど。

 スイバルとは何かについては、前回のCOOLPIX S10の記事を参照。

 

京セラのカメラ

 京セラがデジカメというと違和感があるかもしれない。
 東芝とか日立のデジカメを見たとき感じるようなやつ。

 だが、京セラはフィルム時代からカメラを手がけていたのだ。
 コンパクトカメラをちょっと出していたっていう程度じゃなく、しっかりレンズ交換式一眼レフをやっていた。


 京セラカメラの源流は、60年代に「ヤシカエレクトロ」というコンパクトカメラで一世を風靡したヤシカという会社。
 大衆向けモデルで人気を博しつつ、安いだけでなく、自動露出など電子化を積極的に進めた。またレンズの光学性能も優秀だと、あのカール・ツァイスと提携してCONTAXブランドの使用を許された。
 1975年にはオイルショックその他の影響で経営破綻してしまうが、それを買収したのが京セラ。

 フィルムの頃には、CONTAXブランドを冠した高級カメラを複数リリース。一眼レフはもちろん、コンパクトカメラの世界でも今なお名機といわれるものも多い。

 

 で、そういう京セラがデジカメ業界でどう振る舞ったか、というと……。
 なんか、うん、微妙に変な機種、というか時代を先取りしすぎて失敗したようなカメラが多かったな。
 まだ1.6型とかの小さなモニターが多かった時代に、背面を埋め尽くすような2.5型の大きな液晶使ったり。カメラの背面が今のデジカメみたいになったんだけど、でかいだけで解像度低かったからみすぼらしくて。
 あと、フルサイズセンサーのデジタル一眼を最初にやったのも京セラ。CONTAX N Digitalは2002年発売。もっとも80万円という値段と、かなり辛い完成度から失敗に終わったけれど。

 それで、500万画素時代を最後に、京セラはデジカメからも撤退。
 500万画素時代は多くのメーカーがしのぎを削る華やかな時代だったけど、負けるところの淘汰が進んだ時代でもあったなあ。

 

安原製作所/トップページ

 余談だけど、カメラファンなら、レンジファインダーカメラ「安原一式」などでその名を知る安原製作所は、京セラのカメラ技術者だった安原伸さんの創業した会社。

 そして安原伸監督といえば、好事家ならもちろん知っている映画「国防挺身隊」の監督でもあるのだ。

 

SL300R/400Rについて

 そんな京セラのスイバルデジカメが、SLシリーズ。

 スイバル型デジカメは、「少なくともレンズの口径と同等の厚みを筐体に持たせなければならない」という物理的宿命がある。
 よって、ニコンやカシオのスイバル機は、いずれも大型モデルだった。特に厚みが分厚い傾向が強い。

 そこで京セラのスイバルは、まさかの15mm厚。今時のデジカメより薄いくらいの、見事なカード型。変な突起もなく、一部だけ薄くして「最薄部15mm」とか嘘みたいなこともいわず、フラットに15mm。

 

 この極薄スイバルを実現したこのレンズ。
 センサーが1/2.7型と当時としても小さいが、レンズスペックは5.8-17.4mm、ライカ判換算で38-114mm F2.8-4.7。口径が小さいのにF値がまずまず明るい。
 ところが、マクロモードでさえレンズ前20cmまでしか寄れない。とにかく最短撮影距離が長い。おそらく小型化のしわ寄せはここに来てるんだろう。

 スイバルだと、姿勢に無理をせずに花マクロを狙いやすいとか、そういうメリットが生まれるんだけど、このカメラの場合は花なんか全然。
 これだけ携帯性がよいカメラで、マクロが弱いからメモ撮影にも使いづらいというのはまったく惜しい。

 スイバル機としては、やや回転角は小さい。
 収納状態を基準に、前にも後ろにも120度くらい回る。90度にノッチがあるのでストップする。
 あいにく真下にレンズは向かないようだ。

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 レンズ前には、かなりささやかなものながら、フードがついている。前にわずか1mmほどせり出すだけのフードで、効果の程はよくわからない。
 遮光効果はともかく、間違ってレンズに指が触れる事故は強く防止してくれるので、そこは嬉しいけれど。

 このフードは、どうやら28mmのフィルターが使えるようになるアダプターに付け替えることができたらしい。どこかで手に入るかな……。

 

 使ってみると、起動がすごく早い。
 スイバル型だと沈胴レンズの繰り出しがない分、起動を速くしやすい(はず。そうでもなかったりもするが)けど、そのメリットを最大限活かしてある。

 起動以外も、全般的に動作がキビキビしている。
 連写能力もかなりのもので、SDカードが十分高速であれば、秒間3.3コマでカード一杯まで連射し続けられる。
 動画も当時としては上等な部類の、640x480で撮れる。これもメモリーカードが埋まるまで撮り続けられる。当時だと動画機能は完全におまけで、320x240 15fpsを15秒撮れるだけなんてのもざら。

 ただ、この高速性を、どうやら性能の高いCPUをぶん回すことで成立させてる雰囲気がある。
 バッテリーは780mAhと標準的だが、CIPA基準で撮影枚数90枚らしい。使ってても明らかにわかるレベルで電池が持たない。
 しかも、使用中にすぐ熱くなってくる。これだけエネルギーを熱に変えてりゃそりゃバッテリー持たんわなと。

 

 液晶ディスプレイは、今となってはこぢんまりした1.5型。
 解像度も低いし、露出や色を確認できるほどの写りでもないから、フレーミングにしか使えない。
 ただまあ、スイバルだから視野角関係ないのは便利。
 また、反射・バックライト兼用の液晶なので、真っ昼間でもまるで何も見えないなんて事態は起こらない。

 

なんとUSB充電OK

 ただ使えるだけではなくて、なんとバッテリーの充電までやってくれた。これは予想外で嬉しい。
 本体で充電までできる丸ピンプラグ持ちのデジカメというと、私が知ってるのは、他にはFinePix F700と、あとLUMIX DMC-F7くらい。

 USB-AコネクターとEIAJ #2プラグがついたケーブルを使うのだが、これはPSP用の充電ケーブルとして売られている。最近100円ショップとかじゃ見なくなったけど。
 電圧は5Vと本体に記載があるが、電流は不明。
 上の写真にあるPanasonic QE-QL202は1.5A出力だが、これなら連写モードで連写してみても大丈夫だった。
 500mAのモバイルバッテリーで試すと、電源OFF時に充電はできる。しかし電池を外して起動しようとするとダメ。
 USB3.0ポート(900mA)なら起動・撮影は可能だった。

 

 電源プラグの横にUSB Mini-Bコネクターがある。
 PCに接続してみたものの、なぜかWindows 10では認識せず。マスストレージクラスじゃないのかな?

 

実写

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 近接撮影に弱いが、テレ端でもあまり最短撮影距離が変わらないので、寄るならテレ端。上の2枚はどちらもテレ。

 マクロモードは広角固定になってしまう。一応広角マクロモードの方が倍率は高いと思うが、やや切り替えが面倒。
 普通のコンパクトデジカメは、ボタンひとつでマクロ切り替えだけど、これはシーンモードのひとつとしてマクロがある。SCENEボタンを押すとずらっとリスト表示され、十字キーで選んで確定してマクロに入る。

 また、AFはあまり頼れるものではなく、特に近接だとよく奥ピンになっている。
 モニターも小さく低解像度だから、ワイドマクロだとピント外れがほとんどわからない問題も。テレマクロだと少しマシ。

 

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 ちょっと不思議なのは、なぜか不思議なくらい立体感がない、平面的な写真になってしまう。
 切り株を低めのアングルで撮ってるのに、この奥行きの潰れたような感じ、なんなんだろう。ズーム中域の85mmくらいのところで、多少圧縮効果もあるとは思うが、それにしても。

 

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 発色も地味な傾向。
 まあ、京セラカメラの客層だと、派手派手ビビッドな画質よりは地味な方が合う気はする。

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 何分1/2.7型400万画素センサー、ダイナミックレンジが狭い。
 しかしまあ、露出はわりといいところに落とし込んで来るかな。露出補正がメニューの中だからやりづらいので、全部フルオート任せ。まあまあ。

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 これだけ明らかに中央が暗い被写体で、補正無しでこれくらいの露出を出してくるのは優秀と思う。

 

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 補正なしでこの露出。アンダー寄りとはちょっと意外だが、日差しがキツいから木の間の空が思ったより引っ張ったかな。

 

 画質に関しては、なんとも独特。
 不思議な立体感のなさとか、なぜかいい感じに決まる露出とか。癖はあるが、他社でこういう感じの写りって覚えがないから、ひとつの味と思っていいかも。
 この頃の京セラは、画像処理エンジンを自社開発できず、海外のものを購入して搭載している。それが悪いわけじゃないけれども、この独特さもそのせいだろうか。