堺風の頭部

徘徊、カメラ、PC、その他。

映画鑑賞記「この世界の片隅に」

2016年は映画の当たり年だったのに、なんか映画を見に行ける状態になくって、「シン・ゴジラ」も「聲の形」も「帰ってきたヒトラー」も「デッドプール」も「HK アブノーマルクライシス」も「信長協奏曲」も「きんいろモザイクPretty Days」も観なかった。

平年なら全部観てたと思うんだけど、なんか心身とタイミングに余裕がないと、映画って行けんなるなあ。

それでどうにか気を取り直し、「この世界の片隅に」を見に行った。

(以下ネタバレする)

 

それにしても、「あれは利根じゃ、って言ってるけど利根は舞鶴にいるから最上だ」とか「B-29から投下される爆弾が空気抵抗でやや尻尾振るみたいに落下してるのがリアル」とか、細かいネタは聞いていたのに、誰も肝心なことはネタバレせんのだなあ。

私はあまりネタバレ気にする方ではないから、特に情報摂取を避けていたわけでもなく、避けてないからなんかバレてるんだろ、と思いながら見に行ったら、バレてなくて逆に驚いた。

まあこの記事はネタバレするけど。公開から随分経ってるからよしとしてほしい。

 

アニメ映画らしからず、シルバー世代の観客がやたらと多かった。多いとは聞いていたけれども、平日午後2時の上映ということもあってか、平均年齢60歳越えてたんじゃなかろうか。

それでまあ、客席の様子もいつもと違った。何より、笑いどころで遠慮なく笑い声があがる。私の好きなオタクばっかりの映画はみんな黙々と観とるからな。

映画が終われば拍手が起こり、スタッフロールが終わってまた拍手が起こり、他の映画にはないクラウドファンディング出資者への謝辞が終わってまた拍手が起こる、というのも経験したことがない。

なにしろ戦争中の呉の話ったら何が起こるかくらいは明らかで、終盤は悲惨なことになっていくんだけれど、それでもすずさんの暮らしにはいきなり笑いどころが発生して、客席のじいちゃんばあちゃんも反応良く笑う。私はちょっとそれはようせんのよね。

なんだろう、長年苦労して酸いも甘いも噛み分けてしまうと、焼夷弾の雨の中ようよう防空壕に逃げ込んでも、防空壕の中で間抜けなことがあったらすぐ笑えるような、反応の軽やかさというか、太い神経というか、たくましさができるのだろうか。

まあ私は幼児の頃から、機嫌を落とす分には一瞬でやれるけれど、機嫌直させようと笑わせにきたら侮辱されてると思って怒る子だったから、パーソナリティのせいかもしれんけれど。

みんな笑って暮らせるようになればいいのに、と劇中でいうていたけれど、それは社会情勢のような外的なものがそうなればいいというのか、あるいは内的なこと、どんな悲惨な状況下でも笑うことがあればすぐ笑えるようなタフさが備わればいいというのか。

私みたいなんは、どういう生活してても基本的に笑って暮らしてないからなあ。

 

すずさんもまあ、ぼーっとしてると言われて他人からは悩むように見られないだけで、むしろストレス溜めて発散の術もあまり持てないタイプに見えた。すぐに怒れないとか、不満を巧く表出できないのは、怒らないとは違う。いや私がそうだから自己投影してるだけかもしれんが、すずさんから愛嬌引いて恨みっぽさを足したら大体私みたいになるような。

玉音放送聞いて敗戦と言われて、すずさんひとりでえらく怒るのも、私はその気持ちのほうがわかったところがある。

自分が悪いわけでもないのにあまりにも酷い目に遭わされ続けて、我慢ばかり強いられ続けて、何一つ報われもしないままもう終わりだ、と勝手に決められても、納得いくわけないだろう、と思う。

この世に因果応報なんてものはなくて、ろくでもないのは仕方ないと割り切れて、とりあえず今までの悪すぎる状態が終わりといわれて安心できる、そういうのは、防空壕で笑えるくらい太くなきゃできんだろうから。

父母の世代なら老成する時間もあろうし、もう少し上なら落ち着いた時代に自分で生き方を選べ、今を選んだ結果だと割り切ることもできて、しかし「成人したら戦争してた」なんて世代は老成する時間も割り切れる理由もない。間の悪い世代ってあるものだ。

 

それとあれだ、世の中が良い方なり悪い方なりに変わっていくのは時間がかかって、それが人々にまで伝わってくるのはもう少し遅れるけど、変わった世の中に沿った出来事が起こるのは突然だ。

戦争が始まる前から敗戦までどんどん世の中の雰囲気は悪くなっていただろうけど、「モガだとか華美なことをやってる場合か」と言われたり、配給止まったり、建物疎開だと家ごと取られたり、焼夷弾降ってきたり、原爆落とされたり、個人にとっての出来事は突然来る。

世の中の雰囲気に敏感な方が、いきなりやってくる出来事に備えられていいんだろうか。敏感だと世の中が悪いときには疲れてしようがないし、我が子が突然爆弾で消し飛んだなんてことが心構えでどうにかなるわけでもなし。 

 

まあ別にまとまったこと書く気もなかったけど、話にオチがつかない。どうしたものか。

幸い、何ヶ月も出遅れても、これだけ長く大ヒットになってくれたおかげで今更見られたのだけど、私わりとヒット作よりマイナー作見たがる傾向があるのだから、もう少し腰を軽くしないと。

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そして早くも、トニー・ジャーの映画がひっそり公開されていたのに気付きもせずに終わってしまっていたことに気付いた。ああ。

 

ともかくまあ、次は「沈黙 -サイレンス-」かな。

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